七つの幸運ep.剣筋剣士「剣は腰に、誓いは胸に」②
2.
「奇跡どの! 奇跡どのはいるか!」
剣筋剣士。つるぎすじけんし。公立域還高校二年一組。
校内なのに制服ではなく剣道着に身を包み、腰に木刀を差して走り回るその姿は、異様……というか、滑稽そのものだった。
他の生徒達から向けられる奇異の視線になど構うこともなく、剣士は息を切らせて走り回る。
ひとりの女子生徒の名前を、必死に叫びながら。
「あ、サムイくん! やっほー!」
未知標奇跡。みちしるべきせき。公立域還高校二年一組。出席番号28番。
幸運に愛された女子高生。
名前を叫ばれていた女子生徒は、剣士の必死な剣幕とはまったくの真逆で、あっけらかんとした挨拶を返す。その表情は、笑っている。いつも通り。
「だから、呼ぶならせめて侍と呼んでくれと言っているであろう!」
「サムイくん!」
「…………」
未知標奇跡には、人に変なあだ名をつける癖がある。
「そんなに慌ててどうしたの?」
「そうだ、奇跡どの! 怪我はないでござろうな!」
「ケガ? 奇跡ちゃんはこのとおり、ぴんぴんしてるよ!」
「そうか、ならば……よかったでござる」
未知標奇跡の周りには、人が集まる。いつも笑顔で、いつでも幸せそうな彼女の近くにいると、なんだか自分も幸せな気持ちになってくるのだ。
引っ込み思案も。記録人も。写真家も。人形遣いも。ヤンキーも。
みんな、奇跡ちゃんの幸運性に依存してしまう。
「いつもありがとうね、剣士くん」
「いや、いいんだ。拙者と奇跡どのの仲でござろう」
剣筋剣士もまた、未知標奇跡に救われた一人だ。
しかし彼と奇跡の縁は、それだけでは語れない。濃いとか、深いとか、もはやそういう次元ではないのだ。
時を超えて、結び付いている。
「拙者は奇跡どのの為なら──命さえも、捨てる覚悟はできている」
己が仕える君主の為に死すること。それが侍の幸せ。
剣筋剣士にとって、未知標奇跡に尽くすということは。
自分の幸せに尽くすということと、同義なのだ。