七つの前屈ep未知標奇跡「プロット通りの三者面談~歩め、道。~」
4.
未知標奇跡という少女について、特に語るべき過去はない。
運が良かった。
愛されていた。
幸せだった。
この程度だ──たったの三行で済んでしまう。
「ええっ、さらりーまんの探偵ごっことか受付嬢さんの儚い青春とかばんちょーさんの過去の過ちとか刑事さんの未解決事件とか占い師さんのぱらどっくす? とかいいんちょのお家の事情とかはこれでもかってくらい懇切丁寧に描写するのに、奇跡ちゃんの人生はたった三行なの!? 奇跡ちゃんショックだよ……」
という声が聞こえてきそうなので──実際には彼女がその人生においてそうやって『落ち込む』みたいな意思表示を、体裁上でもすることがあるのか、甚だ疑問ではあるが──幼かった彼女が好きだった『お遊戯』について、ここで軽く述べておこう。
女子高生がまだ女子保育園児だった頃。
幸運な少女が、こううんな幼女だったころ。
当時のきせきちゃんは、『お人形遊び』が好きな女の子だった。
いわゆる、『ごっこ遊び』。
保育園のおゆうぎ箱や、実家のおもちゃ箱の中に押し込められた人形に名前を付け、それなりの設定を付与し、なんらかの役割を与えて──齢二ケタにも満たない幼子の考えるものだ、他の例に漏れず彼女のそれもひどく拙いものであったが、一応『形』にはなっていた──自分の手で操作して世界を捉えるお遊戯。
さしずめ幼女は、その世界の創造主であり、あらゆる理の導き手であった。
「これもね、これもね、きせきちゃんがなまえつけたんだよ。これがこうなってこうなるって、ぜーんぶきせきちゃんがかんがえたんだよ。すごいでしょ? すごいよね! きせきちゃん、まるでかみさまみたい! めがみさまだよ!」
女児のかわいらしいごっこ遊び。
保育施設の、何気ない一コマ。
一般家庭の、ありふれた日常。
つまらない、たいくつな、光景。
「あしたもね、そーしちゃんとお人形さんであそぶんだよ! あーはやくあしたにならないかなあ。たのしみだなあ」
それでも当の本人は──後に、己が身に巻き付いた行き過ぎた『幸運』性に退屈を感じることになる、未来の女子高生は。
みちしるべきせきが『お遊戯』をするその笑顔は、とっても、楽しそうだった。