後悔で溢れる世界〈b:お悔やみ編〉ep.芦分三科「芽生えた心、ここに在らず」①
1.
「動かないでください」
──怖い。
芦分三科は、凄惨な笑みを浮かべてこちらを冷たく見下ろすお母様に対して、『恐怖』を感じた。
機械として造られたはずの彼女が、本来抱くはずのない感情。
「使い物にならなくなった機械は、こうするしかありませんからねえ──一号機と二号機のように」
──怖い。嫌だ。助けて。
三科の回路に、エラーが鳴り響く。
彼女の脳部に組み込まれたハピネスウォッチと同様の回路はたしかに『動かずに科学者の行動を受け入れる』と示している。
なのに、身体がそれを受け入れられない。
存在しないはずの『心』が、それを拒否しようとする。
「そんな……お母様……わたしには、わたしには夏向が」
「だからなんですか」
壊されてしまう。廃棄されてしまう。死んでしまう。
それ自体が怖いわけではない。
成果を出せなければスクラップ、それは機械である彼女にしてみれば当たり前のことだ。わざわざ拒絶するようなことではない。
ならば、彼女は何にそこまで恐怖するのか。
決まっている。
「さよならです──ナンバースリー」
鈴木夏向に、運命の恋人にもう会えなくなってしまうことが、たまらなく怖くて、嫌だったのだ。
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