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七つの前屈ep.安楽詩衣「機能、役職、委員長~据われ、軸。~」
5.
いくら「中心から動かない」とはいえ。
彼女だって、安楽詩衣だって生きている。
年も取れば、進級もする。
「じゃあ、二組の学級委員は安楽詩衣さんで決定ね。みんな、義務教育最後の一年、基礎に忠実基本に堅実に、真面目でまともに頑張っていきましょうねえ」
域還市立中学。三年二組の学級委員に、当時の安楽詩衣は選ばれた。
時に優しく時に厳しく、ちょっと生真面目な教師が担任を務めるそのクラスは比較的穏やかで、特にこれといった問題も、不祥事も起こらなかった。
「はい、安楽詩さん。いつもありがとうねえ」
波風も立たず、嵐も来ず。
「なにか困ったことがあったら、なんでも先生に言ってきていいのよ?」
微動だにせず、揺らめきもせず。
「ねえ……そろそろ、なにか、事件や事故でも、起きたんじゃないかしら」
身じろぎも、たじろぎもせず。
「…………安楽詩さんの取りまとめる、このクラスってさ──」
その安寧は、熱意溢れる勤勉な教育者にとっては、ひどく退屈だったらしい。
「──調和が取れて甘ったるくて、つまんないよね」
ただ、安楽詩衣はずっと、学級名簿ばかりを見ていたから。
その先生の名前も、クラスメートの顔も。
ほとんどなにも、覚えていない。