『七つの前屈』ep伝導寺真実「瓢箪の中で回る駒~捲れ、舌。~」
2.
「わたし、本当にこの人と一緒になって、幸せになれるんでしょうか」
遠牧婚。とおまきくながい。隣町の許嫁。不安げな新婦。
「じゃあ、僕が占ってあげようか。あなたとその彼の新婚生活が、どんなものになるのか」
伝導寺真実。でんどうじまこと。超直感の占い師。未来を見据える超能力者。
域還市内では、こんな噂が流れている。
『三色公園には、〈未来人〉が住んでいる』
未来人。読んで字の如く、未来の人。未来から来た人。
そしてその彼は、しがない占い屋を営んでいるという。
「ええ、お願いします──未来人さん」
未来から来た人間を未来人と呼ぶのなら。時間は常に過去から現在へと流れているのだから、人はみな、〈過去人〉ということになりはしないか?
時間の流れる向きは常に同じである、という概念がそもそも古いもので──未来の人間からすればもはや過去の常識で──すこし先の世界では、未来から過去、過去から未来へと、自
由に行き来できるような世の中になっているのではないか?
考え出したら、キリがない。
希望も理想も、腐るほどに溢れてくる。
「未来人なんて大げさだよ。……さて」
ただ。
この世は等価だ──無差別も平等も基準も平均も、すべては等しく均されているというだけ。
希望と理想と同じくらい。
未来は、絶望と現実で溢れている。
「遠牧さん」
「え……? なんで、わたしの名前……」
「だから言ってるじゃないか。僕に嘘はつけないんだって」
「嘘、っていうか、それはもう──」
「【不安】げな新婦、遠牧婚さん」
伝導寺真実は、他者の個性を見透かしてしまう。
挨拶もなしに、『なんとなく』、『直感』で、固有名詞まで見通す。
その人物が抱えるメッセージ、連なる文脈、紡ぐ物語──立つべき舞台を、見据える。
そして、予言を口にする。
「きみはその人と、一緒にならないほうがいい。結婚なんて、するべきじゃないよ」
絶対に変わることのない、確定した未来を。
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