七つの幸運ep.剣筋剣士「剣は腰に、誓いは胸に」⑦
7.
余所者に厳しいのは、動物の性だ。
理性を持った人間の縄張り意識はときに、野生のそれよりも鋭く深い。
「……なに。あんたが、助っ人侍?」
「左様。此度の剣道部の危機は、拙者に任せておけ」
訝しみながら剣士を睨め付けるその眼が、彼女のただならぬ警戒心を物語っていた。
「……ほんとに、信用できるのかしら」
安頃理南。あんころりみなみ。公立域還高校剣道部マネージャー。手首には、五つのミサンガが巻かれている。
その警戒は、剣士の口調や格好から発される不審さに対してではなく、初見の人間が自分達のテリトリーに入ってくることを拒むときのそれだった。
『ここはわたしたちの居場所だ。部外者が立ち入るな』
誠に勝手な言い分ではある──彼女もそれがわかっているからすんでのところで言葉にはしないのだが──ものの、剣士はその反応を受けて、少し胸を撫でる。
すくなくとも、彼女にとって剣道部は、守るべき場所であるらしい。
「無理に信じろと言うつもりもない。貴殿らはただ、結果だけを見てくれていればそれでよい」
それを知れただけで、剣筋剣士が戦う理由としては十分だ。
「地区大会は勝ち抜き戦よ。もしかしたらあなたは、置大将のまま、汗ひとつ掻かずに試合を終えるかも」
「それならばそれでよかろう。……が、そうなることはないと思うぞ」
「はぁ? なに、うちの部員じゃ勝ち抜きはできないっての……」
「これを見ろ」
細く尖った眼で睨み付けてくるマネージャー少女の眼前に、剣士はオーダー表を突き付ける。
「え……?」
そこに記された文字が示すのは、救世の希望か、諦念の現れか。
「我が校の部を襲う不吉は──拙者がひとつ残らず、叩き斬ってくれるでごさる」
オーダー表の、最初の列。
『先鋒:剣筋剣士』