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七つの前屈ep.安楽詩衣「機能、役職、委員長~据われ、軸。~」

6.

「た、大変だよね……意見を取りまとめるのって」

 綿陽郷咲桜。わたひさとさくら。公立域還高校二年二組出席番号三十番。憧れを抱く普通の少女。

 春に芽生えた恋心が、次第に膨れ上がっている女の子。

 きっと、楽しい日々をお過ごしのことだろう。

「手伝えること、あるかな?」

──手伝うもなにも、そもそもわたしはここにいるだけなんですけどねー。

 健気な少女の、善意百パーセントの申し出にどう答えたものか決めかねて、黙っていると。

「あ。お、お節介だったよね。邪魔しちゃってごめんね」

 彼女の方から、目を背けてしまった。

──まったく。自分から話しかけてきておいて、なんなんですかねー。

 安楽詩衣は、勘違いされやすい人間だった。むかしから。

 生まれたときから、勘違いされ続けてきた。

──ま、どうでもいいんですけどねー。べつに、だれにどう思われていようと。

「い、池袋くんは、そっか……演劇派なのか……わたしはお化け屋敷のほうが、どっちかというと興味あるけど……でもでも、池袋くんがそっちなら、わたしも……」

──はいはい、お化け屋敷に一票、と。えーっと……名前、なんでしたっけ。たしか、わた……わたげ……?

「はっ! もしかして、これがあの人の言ってた『アンカリング』ってやつかな……?」

──アンカリング……ちょっと美味しそうな名前ですけれど……なんでしたっけ、たしか、経済学の用語かなにかだったような。

「……いや、ちがうか。これはただの、わたしの気持ちだ」

──なんか、勝手に納得し始めましたねー。意見に気持ちを持ち込むなんて、実にくだらないですけど。

「あんかりんぐはたぶん、委員長のことだ」

──あんらくしんぐ?

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