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七つの前屈ep.硝子張響「血塗の赤春~壊せ、傷。~」
1.
一度壊れたものを、再び壊すことはできない。
人だろうと物だろうと、形あるものはいつか壊れる。生物なら腐り、金属なら錆びる。繊維はほつれ、液体は乾く。
環境や関係と同様、変わらないものなどない。
この世の理は流動だ。
しかし人は、その流動に抗おうとする。流れるプールを逆走して遊ぶ児童からタイムマシンで時間を遡ろうと試みる学者まで、人類は頑なに、世界に勝ち目のない戦いを挑んできた。
勝てるはずもないのに。
それでも挑戦がなくならないのはきっと、その勝負が人に「負けた」という実感を与えてはくれないからなのかもしれない。
あるいは、責任感か、義務感か。
それともただ単に、退屈だからなのかもしれない。
ともかく、どれだけ大切で大事なものでも、永遠にその形を保ち続けることなどできはしない。
唯一方法があるとすれば──もうそれ以上壊れようのないくらいまでぶっ壊してから、それをなんとか必死に拾って、硬い殻にでも閉じ込めておくくらいしか、ない。
その行動自体が、もはや十分、これ以上なく破滅的ではあるが。
「喧嘩は勝ち負けでも、気持ちでもねえ。どっちかが相手をぶっ壊して、終わった後になにが残ったか、それだけだろ。──結局そこに残るのなんて、傷だらけになった路くらいのもんだろうが……くだらねえ」
壊しては傷つき、進んでは壊れる哀れな挑戦者が、ここにもひとり。
血で血を洗うカラーギャング。矛盾を抱えた先兵大将。
戦場の悪魔。
『勇猛』に破綻した喧嘩屋──硝子張響。