七つの幸運ep.剣筋剣士「剣は腰に、誓いは胸に」④
4.
「はあ? 仁義?」
生まれる時代を間違えた。
「ぎゃはははははっ! なにお前、侍かなんかなの? まじ受けんだけど、ござるってやつ?」
ずっと、そう想って生きてきた。
「なんでいつも剣道着着てんのー? 汗くっさ! 脱げよ」
「話し方キモーい。いつの時代よ。てかなんか熱苦しいし、うざい」
悪いのは時代で、愚かしいのは風潮だ。
どんな扱いを受けても、個人を恨んだり攻撃していい道理にはならない。
「はっはっはっ! やはり拙者のような武士には、この時代は合わぬのか」
武士は食わねど高楊枝。腹が空いても戦をし、逃げるくらいなら死を選ぶのがモノノフだ。
「生まれてきた時代に、合うとか合わないとか、ないんじゃないかな?」
それは、彼と『彼女』が中学校に上がったばかりの頃。
「だって、みんなこの時代に、この街に"たまたま"生まれてきたおともだちでしょ? 着る服とか喋り方とか、なんだっていいじゃんか」
ランドセルを脱いだばかりだった同級生たちはみな、幼く、拙く、他人の感じる痛みや、だれかに痛みを与える苦痛も知らず、教室では心にもない言葉ばかりが、思い思いに吐き出していた。
その少女も、ただ思ったことを無邪気に口にしていただけなのだろう。
「だから、悪口言わないで仲良くしてた方が、きっとみんな幸せだよ!」
剣筋剣士は、善悪も清濁も有耶無耶にするようなその、幸せそうな笑顔に──救われた。
「ねえ、サムイくん!」
「拙者の名は剣筋剣士、だ!──あ」
いまより遥か昔にある戦乱の世。
そこにもひとつの、時代にうまくそぐわずに迫害される魂があった。
「サムイくん! 奇跡ちゃんは、あなたと同じ公立域還中学一年一組の、未知標奇跡ちゃんだよ! よろしくね」
「未知標──奇跡どのと申すか」
まるで遥か時代の奥底から転生してきたかのような、時代錯誤のエセ侍は。
「奇跡どの。またもや拙者は、あなたの声に救われた。願わくば今生もまた、拙者と共に生きてくれ」
瞳のなかで小首を傾げながらも幸せそうに笑う女子中学生に。
「こんどは拙者が、必ず貴女を守るから」
丁も半もごちゃ混ぜにした博打に身を投す、無謀な姫の姿を重ねた。