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七つの幸運ep.穴生革命音詠詞「届けない想い、永久に」⑦

 7.

 これはあれだ。『告白』というやつだ。

 身をもって体感するのは初めてだが、そこは華の女子高生、そういった現場自体は幾度か目にしている。

 決して、気持ちのいいものではなかったが。

「あのでもね先輩。今日、いまから、僕と一緒に帰ってください」

 想いの濁流に飲まれていた意識が、打ち上げられる。目の前には、小柄で幼い顔つきをした、同じ学校の男子生徒。

──やっぱり、疲れるなあ。

 詠詞は漏れそうになる溜息を抑え込みながら──いつもそうしているみたいに、浮き出てしまいそうな心を意識の穴の奥に押し込めながら──後輩くん、もとい公立域還高校一年生、

大刀洗くんと向かい合う。

 蒸気した頬。わずかな期待と膨らんだ不安に揺れる瞳。真剣そのものな表情。

「ごめんね、大刀洗くん」

──しんどいな。

「気持ちは、うれしいんだけど」

──ほら、あんたのせいで。また嘘ついちゃったじゃん。

「いまは、答えられないや」

──なんでわたしなの。

「だから申し訳ないんだけど、今日は……」

「じゃあ、明日ならいいですか?」

「え?」

 いつもどおり。むかしからそうしているみたいに、心にもないことを言葉にして、穴に閉じ込めようとしていた気持ちが、こじ開けられそうになる。

 冬が過ぎれば、春がくるみたいに。今日を踏み越えて明日を求めてくる後輩に、煩わしさを感じながらも。

「明日なら、一緒に帰ってくれますか?」

「……ごめん。明日も、だめかな」

 

 詠詞は、本音は隠し続ける。言の葉でくるんだ心を、溜息の代わりに、吐き出していく。

「じゃあ、明後日なら」

「ごめん。むり」

 むり。できない。だめ。ごめん。『否』の一点張り。

──あーあ。ごめんね、未知標ちゃん。やっぱわたしには、選択を天に委ねることなんか、できそうもないや。

「……僕のこと、男として見れないなら、せめて友達から……」

「ごめんね。友達なら、もういるんだ。すっごく、大事な子が」

──だって。

「今日も明日も、明後日も。その子と一緒に、帰る約束してるんだ」

──わたしの『かみさま』は、未知標ちゃんだから。

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