七つの退屈ep.安楽詩衣「役職、機能、委員長~据われ、軸。~」⑨fin.
9.
「いいんちょ、一緒かえろ!」
御輿袖祭里。みこしそでまつり。公立域還高校二年二組出席番号二十七番。
踊り子を担ぐ少女。運命の骨組み。
「なーんて、幸運少女のものまっね!」
「……だれですか、幸運少女って」
「だれって、きみの友達じゃないか!」
「いませんよ。わたしに、友達なんて」
「あーあ、またそんなこと言って。奇跡ちゃん、ショックだろうなあ。とほほだろうなあ」
放課後の二年二組。学級会の閉廷後。いわば、放課後の放課後。
中心に座ったまま微動だにしない学級委員に話しかける少女が、ひとり。
彼女の眼は、語りは、どこか別の世界と繋がっているようで──どこか違うところに立っているようで。
視点が、視座が、他とは異なるようで。
異様な存在感を放っていた。
「ま、でもいいや。主人公っていうのは、孤独なもんさ」
主人公。
そういえば、先の嘲笑した副担任、埋連尽射羽も、同じようなことを言っていた──いや、あれは主人公ではなく、主役だったか──気がするが、安楽詩衣には、関係ない。
彼女は、意見の集計で忙しい。
個人に構ってやれる暇はない。
「うんうん、いいんちょはそれでいいんだよ。それがあなたの個性だし──だからこそ、この舞台に立つキャラクターに、選ばれたんだから」
薬品会社。汚染されたビル。
公園。カラーギャング。刑事事件。危険薬物。
学校。進路。
域還市。
「クスリさんの健康と、ハアトさんの博愛と、ガラスくんの勇猛と、奇跡ちゃんの幸運と、テジョウさんの聡明と、正直なミライくん。そして、いいんちょの調和」
物語は、ここから始まる。
「次の舞台の、”真の主役”はね──」
次の舞台の主役は、彼女。
微動だにしない優等生。
定点観測北極星。
押しても引いても委員長。
『調和』に囚われた学級委員──安楽詩衣。
「はあ。なにを言ってるのか、よくわかりませんが。とにもかくにも、退屈な話ですねー。……いつもどおり」
中心から動けない彼女が少女に手を引かれるまで、あと──。
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