七つの前屈ep.硝子張響「血塗の赤春~壊せ、傷。~」⑤
5.
「関係ねえなあ。邪魔だからぶっ壊す、それだけだろ」
硝子張響と利手川来人が出逢ったのは、彼らが昼下がりの公園で姉の番号から着信を受けた日から、三年前のこと。
響が高校一年生で、来人が中学一年生だった頃。
「関係ないって……女の子だろうがよ」
「だったらなんだ。男女差別はしねえのが、親から受けた教育でねえ」
まだ域還市の公園が、青や黄色で溢れていた時代。
黄色いジャージに身を包んだ来人と、真っ赤なパーカーを羽織った響が向かい合っていた。
来人の後ろには、彼と同じく黄色い衣装に身を染めた女が立っている。当時の来人と後ろの女は、カラーギャング『ニードルビー』の構成員だった。
スズメバチの針。
黄色い注射器。
死を対価にして刺して殺す、玉砕必死の特攻隊。
そのチームの族長は、部下を駒として消費する、血も涙もない冷血漢として極めて悪名高い。
自分は傷つかない距離から高みの見物を決めこみ、周りを傷つかせるボスだったらしい。
「ちょ、ちょっとなんなのこいつ……あぶなくない?」
「ごめんね、そーしちゃん。俺がすぐに倒してあげるから」
格好付けるように薄く笑いかけてから。
「さあ、こいよ──お前なんて、右腕一本で十分だ」
来人は構える。
好きな女の前では気障を演じたくなるのは、男の癖だ。
「そうかい、喧嘩うるからには覚悟は済ませとけよ。俺は、一度始まったらもう止まんねえからなあ」
響は、特に構えるということもなく。
ただ拳を前に突き出して、威嚇するような凶暴な笑みで、告げる。
「その女、お前がどう思ってんのかは知らねえが──大事なもんなら、ちゃんと守れよ」
二人の男の拳が交わる。
不良同士の友情なんて、始まりは衝突だと相場が決まっている。
どっちが勝ったかなんて、言うまでもない。