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『七つの前屈』ep伝導寺真実「瓢箪の中で回る駒~捲れ、舌。~」

8.

 安楽詩衣は、動かない。

 北極星、という星がある。

 天の北極に、最も近い星。航行観測ではその星を基点とする、世界の軸として据わる星体。

「きみもその、世界の一部なんだ。物語の断片、事件の一端なんだよ」

 真実は言葉を吐き続ける。

 目の前の女性が表情を強張らせるのを視認しながら──もとより彼が読むのは『表情』だのという浅いところにないが──なお、語るのをやめない。

 彼の正直は、口を吐いて出てしまう。

 傷つけば拳を振り翳すように。選択肢ができれば人差し指を振るように。問題が浮き上がれば思考するように。

 感じ取った自然を、真実として、息とともに吐き出してしまう。

「喧嘩屋も女子高生も刑事も、もっと器用に、上手に生きれたらいいんだけどね。まあ、僕が言えることじゃないか」

「……? なんの話だ? 占いが終わったのなら、わたしはこれから、仕事に戻る。礼は言っておこう」

 ずっと黙って伝導寺の話を聞いていた政宜館だったが、彼のそんな意味深な言葉とともに、席を立つ。

 伝導寺真実は、他の人物とはやや、立ち位置が異なる。視点が違う。見方が変わっている。

「あ、そうそう。これはもし、覚えてたらでいいんだけど──これだけは、忘れないで」

 とても正解とは示されなさそうな、破たんしたセリフとともに。

 伝導寺真実は、このどうでもいいくだり──事件でもなければ、安寧ですらない──を、畳にかかる。

「健康なだけの部下と博愛振り撒く受付嬢とも絡みがあったみたいだけど。あなたたちと彼ら彼女らは、文脈がまったく異なるからね。……絶対に、交わることはないよ」

 肝の話は、舞台上で。前座は長すぎない方がいい。

 もとより彼の身の上に、これ以上語るなにかしらはない。

 未来は、彼の目の前ですでに繰り広げられている。

 そこに調和が、入り込む余地はない。

 次の舞台の主役は、彼女。

調和に甘んじる学級委員──安楽詩衣。

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