『七つの前屈』ep伝導寺真実「瓢箪の中で回る駒~捲れ、舌。~」
3.
未処方硲は、矛盾に寛容だ。
人生に不具合はつきものだ、ということをわかっている。知っている。理解している。
常識として──状態として。
反発も反抗もせずに、ただただ、受け入れている。
世間には抗えないことも、だれかが発した声など世論に掻き消されることも、ちゃんとわかっている。
「やあ、またあなたか……どうかな。僕が予言した場所に、お目当てのモノは、ちゃんと置いてあったでしょ?」
富所外賄賂。ふところげわいろ。【強欲】に
「頼もう。きみは、なにをどこまで知っている?」
政宜館翳。せいぎかんかざし。【憤怒】に腹を煮る仕事人間。怒ってごめんなさい。
「たのもうって。道場破りじゃないんだから」
「答えてくれ。その常識破りな心眼で視た未来を、わたしに教えてくれ」
彼女と違って。
義を持って生まれ、正しく育ち、己の正義に愚直に従って生きる政宜館翳と違って──彼女の部下である未処方硲には、義もなければ、正しさもなかった。
あるのはただ健康なだけの、身体と心だけ。
それだけあれば、人生を滞りなく生きるには十分だ──退屈な毎日を過ごすには、存分だ。
「わかってるよ。あなたがここに来て、僕にそういうお願いをしてくることも。僕には、なんとなくわかっていたからね」
次の舞台の主役は、彼。
健康に身を委ねるサラリーマン。
穢れのない身心がつまらない社会人、未処方硲。
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