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七つの幸運ep.撮記取喜六「新たな伝聞、紙の上」⑤

5.

 なにやらおかしな格好をした者がいるらしい。

 なによりもスクープを求める喜六が足を向けるのに、それ以上の理由はいらなかった。無かったが、しかし。

「む。なんだ、貴様は。現代の侍である拙者に、なにか用があるのか?」

 ある筋から得た情報に従って中庭に繰り出すと、そこでは剣道着に身を包んだ(なんでだよ制服は?)侍(風)が、汗を拭って話しかけてきた。

 その手に握り込まれた竹刀で、素振りでもしていたのだろうか。

「……まあ、たしかに。変わってはいるけど……」

 おかしいと面白いは同義ではない。

 雑記であるところが新聞の最大の利点。記事のジャンルに制限はつけない。どんなスクープも受け入れるのが、記者のあるべき姿というものだ──しかし。

「……なんだろう、なんか」

「さっきからぶつぶつと、煮え切らないな。言いたいことがあるならはっきりと申せ!」

『きみはさ、なんていうか。"今"にしか興味がないよね』

 喜六の頭に、ある言葉が蘇る。

『むかしとか、みらいとか、そういうところにも想いを馳せてみるのも、必要だと思うけどね』

 まだ入部したてのころ、当時の部長から受けた言葉。

『人の気持ちを思い遣ることが、記者にとって一番大事な仕事なんだからさ』

 この言葉の意味が、喜六にはまだ、よくわかっていない。

「……? なにを呆けておる。用があるなら、申せ」

 喜六は右手に構えたインスタントカメラと、左脇に抱えたメモ帳を閉じる。

 人と対面するときに両手が空いたのなんて、いつ以来だろうか。

「ねえ、コスプレ侍」

「だあれがコスプレだ! 拙者の名は剣筋剣士、だ!」

「剣筋くん」

 未来とか、過去とか、まだよくわからないけれど。

「僕は、あなたの記事が書きたい。今度、取材をさせてくれないか」

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