見出し画像

『七つの退屈』ep.未処方硲「薬要らずの健康体~侵せ、毒。~」⑦

7.
「『バーナム効果』──だれにでも該当するような曖昧で一般的な回答を提示されれば、人はそれを、自分だけに当てはまる答えだと勝手に思い込んでしまう心理学の一種ね。占い師なんかがよく使う手法らしいのだけど……ほら、たとえば『あなたはお金を稼ぐためなら仕事を頑張れる人間ですね?』とか、『あなたは綺麗な女性を見れば心を奪われてしまいますね?』とか、『あなたは疲れた時は甘い物に逃げてしまう傾向にあるようです』とか。こういうのを立て続けに提示されれば、うわ、この人なんでこんなにわたしのことがわかってしまうんだろう! 超能力者だ! なんて、思っちゃうでしょう? けどいま羅列した性格なんて、よくよく考えてみれば人間であれば普通、だれにでも当てはまってしまうものばかりよね。てんで珍しくも、不思議でもないわ。だけど人間はおしなべて、自分だけは特別だと疑わない、信じ込みたい生き物。そんな、どこまでも平凡で限りなく普遍的な特性だって、自分のアイデンティティだと思い込んじゃう。当てはまっていればいるほど、没個性が浮き彫りになるだけなのに。まあ、そりゃそうよね。自分を信じるのってたしかにすごく難しいことだけれど、自分を、己の存在を疑うというのは……それ以上に、ひどく辛く苦しいことですもの。──ところであなた、とっても正義感に溢れた凛々しい貴婦人なようだけれど、どう、このままわたしと愛の悪党退治としゃれこまない?」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?