『七つの前屈』ep.未処方硲「薬要らずの健康体~侵せ、毒。~」①
1.
この世のすべては毒にもなれば、薬にもなる。
万物の根源にはなにかしらのエネルギーが流れており、それら個体同士が接触すれば、互いの影響はプラスにもマイナスにも作用する。
自律的に動くことのできる動物はその典型で、特に人間は文字や音楽、絵画や映像機器によってそれぞれの特性や効能を後世に伝える役目を神様から預かった。
アルコールを飲めば酔っ払い気分が高揚して肝臓を傷つけ、煙草を吸えば心は落ち着き肺を腐らせ、野菜を食べれば血流が良くなるが過剰摂取は消化器官に異常を来たす。
どんなものにも優れたところがあれば悪いところもあって、つまり重要なのは「優劣」ではなく「程度」だとするその平等主義的考え方は多くの人類に希望を与えてくれそうな話だが、しかしどんなものにも、例外は存在する。
むしろ、例外なき法則は法則として成り立たないとさえ言ってしまってもいい。
「僕は怪我をしたことがないし、病気になったこともない。擦過傷も微熱も、まるで異世界で繰り広げられるファンタジーみたいだ。あまり人に嫌われるような性質ではない僕だけど、どうやら疫病神は、僕のことがあまり好きではないらしい」
ここにも、例外的な『健康』を有した男がひとり。
平均的な人畜無害。営業課のボーダーライン。
毒にも薬にもならない男。
健康に毒されたサラリーマン──未処方硲