七つの前屈ep.「理論順守の最適解?~揺らせ、脳。~」
2.
「先輩、また例のヤマ追ってるんですか? 懲りないですねえ」
政宜館被。せいぎかんかぶり。域還警察署捜査一課のデカ。皮被りの正義漢。
「ああ。すこし出てくる──心配ない、すぐに片付くさ」
型固芽道利。かたがためどうり。刑事捜査のエキスパート。法の番人。
「でも、珍しいですよね。先輩にしては、けっこう手こずってるみたいじゃないすか」
「ほう。お前には、俺が手こずってるように見えるのか」
域還警察署内で型固芽道利はすこし、浮いている。
それは嫌われているとか、疎まれているとかではなく(彼の才能に嫉妬する輩のなかには、そういう感情を有するものも少なくはないだろうが)ただ単純に、距離を置かれている。
敬遠されて──警戒されている。
【聡明】すぎる天才。
”模範解答”。
「見えますね。俺には、先輩が内心ひーひー言ってるのが、もろばれっすよ」
「ふん。だとしたら、お前の目と頭は、よほど悪いとみえる」
どんな難解な問いも、すぐに答えを出せてしまう。
事件の真相を解き明かすように、罪人のアリバイ工作を見破るように。
相手の思考を、簡単に読んでしまう。
知らなくてもいい正解を、導き出してしまう。
「なんすか、俺がバカだって言うんですか、道利先輩」
「お前だけじゃない」
珍しく、自分に対して壁を作らず話かけてくる小生意気な後輩が、いつまでその態度を崩さずにいられるか──たとえばそんなことも、型固芽道利は考えて、結論を出してしまう。
「人間なんてみんな、平等なんだ。そこに優劣などない」
身勝手な持論を振りかざして。極端な自論を展開して。
「もちろん、このヤマのホシ──白粉撒煙利にしたってな」
平等主義な刑事は今日も、くだらない事件を追って、つまらない推理に、脳を揺らす。