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七つの幸運ep.撮紀取喜六「新たな伝聞、紙の上」④
4.
撮記取家の朝は、家族三人で囲む食卓から始まる。
ハムエッグトーストにコーンスープにサラダといった洋食と、白米にお味噌汁に鮭の焼き魚といった和食がひとつの机に並べられる。結婚して、子供が生まれても、相容れない文化は相容れない。その多様性を許容することこそが、夫婦円満の秘訣なのだと、母はよく笑いながら話していた。
しかし喜六がずっと気になっていたのは、そんな雑多なテーブルではなく──そもそも撮記取家にとってこれは当たり前のことであったため、喜六は中学生に上がってから友達の家に泊まりに行くまで我が家の食卓が他の家庭にとっては異質だということを知る由もなかった──父が毎朝広げている、新聞の朝刊だった。
スポーツの結果から国際情勢の未来予想図まで、種々様々な情報が網羅的に記載された紙の束。
父がなにやら難しそうな顔をして追っている文字列の並びが、自分の生きる世界そのものであると知ったとき、撮記取喜六は衝撃を受けた。
「僕の知らない世界が……行ったこともない景色が、そこには全て載っている。会社や学校に行く前の数分で、鮭の骨を取り除きながら、世の在り方を眺めることができる。なんて面白いんだ!」
彼が高校に入学するや否や新聞部への入部を即決し、だれよりも強い情熱で二年生にして部長の任を預かる立場になるのは、いわば当然の結果だった。
「僕が公立域還高校の──域還市の、情報版になるんだ!」
撮記取喜六は今日も、スクープを追い求める。