Permanent Collection『月と六ペンス』
月と六ペンス
電線 ぶら下がって
皮肉になっていく
才能 振り絞って
悪態 ついている
日陰に舞う ルーズリーフ
午前3時半 ふと目が覚めて
カーテン越しに顔出した
月が眩しくて ただ目を閉じる
駐車場に座って
縁石 見つめてる
言い返せもしないで
舌が乾いていく
ホコリが舞う ギターアンプ
午前3時半 ふと目が覚めて
カーテン越しに顔出した
月が眩しくて ただ目を閉じる
「六ペンスだってあるだけマシ」
と思っていたい
日陰に咲く ルーズリーフ
午前3時半 ふと目が覚めて
カーテン越しに顔出した
月が眩しくて
ただ目を閉じる前に掴んだ言葉 繋いで
いつかはあなたに聴かせたいって
苦しみをちゃんと糧にした
新しい僕を待っていて
【解説】
ある日、安城RADIO CLUBに
元viridianのさのさんと
竹原ピストルさんを観に行った帰り道、
ピストルさんに
「トミー、この後時間あるか?」
と言われて、
「なんかあったのかな?」
と不思議に思いながら
2人で駐車場で話したことがあった。
その時のことは詳しくここに書いてある。
http://blog.asstellus.com/?eid=1632333
彼のと最初の出会いは
さかのぼること19年前、
大学2年生の時の話。
『ビタミン』で浮気をされて、
別れた彼女との頃に
僕は古本屋でバイトをしていたけど、
浮気をされたショックで
バイトとも手に付かず、
「休憩の間にそのまま帰ろうかな。」
と思っていた時、
有線から不思議な曲が流れて来た。
ドラムから始まる曲で、
ピアノとハーモニカの前奏、
そして一度聴いたら耳から離れないしゃがれ声と歌詞。
「最近君の夢ばっか見て、
寝起き、妙に切ないから、
近頃俺いっそ寝るのをやめた」
歌ってるのか話してるのか
すらよく分からない。
またよく聞くと歌詞も
お好み焼き2つとか、
BB弾みたいな冷たい雨とか
今まで聴いたことがない言葉の数々。
「なんだこれ?曲?」
と思いながら耳を傾けていると
なんだか不思議と今の自分にピタッときて、
「あの曲、もう一回聞きたいな。」
と思い、
有線からまた彼らの曲が流れるのを待ちながら、
その日のバイトを終えたことがあった。
家に帰ってから記憶にある歌詞を元に調べると
それが野狐禅の『東京紅葉』という曲だということが分かった。
大学生の頃は竹原ピストルに憧れて、
陶酔していた。
僕が履いていたジーパンは
野狐禅『鈍色の青春』のブックレット同様、
後ろのポケットをわざわざハサミで切って履いていた。
それくらい憧れていた。
彼との出会いが明日、照らすの始まりだったと言っても
本当に過言ではない。
そんな彼とひょんなことから知り合い、
幸いなことに共演したり、
一緒にご飯を食べたり、
家に泊まりに来る、
泊まりに行くような仲になった。
本人にちゃんと聞いたことはないけど、
多分僕に期待してくれていた部分があったと思う。
東京に行くと
普通にライブを観に来てくれていたし、
ファーストアルバムのジャケットのイラストもコメントも無償で書いてくれて、
よくライブにも誘ってくれていた。
だからきっと歯痒さもあったんだと思う。
その期待に応えたい自分と
「俺にはあなたほどの才能がない。」
という気持ちで、
本当にあの日まともに答えられなくて、
多分がっかりしたんだろうなとは思う。
翌日、彼にメールを送ると
「トミーが歌えるなら歌え。」
とだけ返ってきた。
言いたいことは痛いほど分かった。
その日を境に
ちょっとずつ彼とは疎遠になっていった。
「あれほど憧れた人が差し伸べてくれた手を
俺は自分の意思で振り払ったんだ。」
そう思えば思うほど辛かったし、
本当にバンドを辞めたくもなり、
周りにも当たるようになった。
そんなあの時、
言えなかったことを歌詞にした曲。
「俺にはあなた程の才能はないが、
俺は俺のやり方で絶対に何かを成し得て見せる。
だから待ってて下さい。」
という自分の決意を書いた曲。
タイトルは
モーム『月と六ペンス』という小説から。
月は才能のある人間であり、
六ペンスは凡人という意味らしい。
ピストルさんはよく自身の歌で月を歌っていて、
僕からしても月のような普遍的であり、
絶対的な存在だった。
六ペンスはもちろん僕のこと。
あの頃は街中(電線ぶら下がって)で
人の悪態ばかりついていて、
わざわざ培ってきた
語彙力を皮肉に使うレベルで、
自分が自分でも嫌になっていた。
ルーズリーフはピストルさんがよく使っていて、
僕も彼の真似をして使っていたが、
僕のルーズリーフは日陰に舞っているだけで、
彼のように陽の目を浴びていないという比喩。
そんな日々で夜中に目が覚めると
3時半だったことが多くて、
そんな時に
月を見てピストルさんを思い出しては、
また静かに1人眠りについていた。
2番の駐車場に座っては
あの日のことをそのまま書いている。
駐車場で2人、
縁石に腰掛けながら話していたけど、
本当に何も言えなくて、
ただ縁石を見つめていた。
ホコリが舞うギターアンプは僕のこと。
VOXのギターアンプを買ったけど、
そこまで使うアテもなく、
ずっと持て余していた。
そんなしみったれた曲ではあるが、
Cメロからは
「六ペンスでもゼロじゃないならあるだけマシじゃないか?」
とついに開き直り、
「俺は日陰で俺の言葉を咲かせる。」
という気持ちになって、
「俺はこの経験を乗り越えて、
俺は俺の歌を作ってやる。
だからピストルさん、待っててくれ。」
という決意に変わる。
この気持ちが今もあることが
明日、照らすが
今も存在している理由でもある。
多分パッと聞いたら
どれだけ僕と親しい人でも
全く意味が分からない歌詞だと思うが、
僕からすると彼にだけ
この思いを伝えられたらそれで良かった。
ただ不思議とちゃんとした背景があるので、
意味は分からなくても
歌詞としては程を成していると思う。
このアルバムができた時、
彼にCDは渡したけど、
その曲を聴いたかどうかは今も分からない。