『ゾンビだらけの町』
ぼくはゾンビだらけの町に住んでいる。
ぼく以外に生きている人はだれもいない。
みんな死んでいる。ゾンビになって動き回っている。
公園のベンチに座ってゾンビたちを眺めていると、
どこか遠いところに来たような感じがする。
ぼくはゾンビだらけの町に住んでいる。
ぼく以外に言葉を話せる人はだれもいない。
みんなうなっている。生きた人間の肉体を求めてさまよっている。
朽ちたカフェの中から、通りをさまようゾンビたちを見ていると、
なんだか悲しい気持ちになってくる。
ぼくはゾンビだらけの町に住んでいる。
ぼく以外に空を眺める人はだれもいない。
みんなうつむいている。することがないから下を見ている。
こんなに晴れた気持ちのいい日なのに、誰も青空を見上げないから、
なんだか寂しい気持ちになってくる。
ぼくはゾンビだらけの町に住んでいる。
ぼく以外に本を読む人はだれもいない。
みんな虚空を見つめている。意識がないからみんな虚ろな目をしている。
こんなに素晴らしい本なのに、誰も読もうとしないから、
なんだか無意味なことのように思えてくる。
ぼくはゾンビだらけの町に住んでいる。
ぼく以外に生きている人はだれもいない。
ひとりぼっちだし、ときどき悲しい気持ちになるけれど、
ここでは誰も傷つかないし、誰も涙を流さない。
ただ一つ残念なことは、
もう誰も僕の名前を呼んでくれないことだ。