なぜ、間接的介入のあるべき姿を考えるのか?
本noteは、令和4年度 全国病院経営管理学会 リハ専門委員会報告会における、筆者の講演内容の一部です。
私たちの委員会の目指すところと活動内容について、より多くの方々に広く知っていただくことを目的として公開します。私たちの業界に係る方々と建設的に議論しながら、業界の発展に寄与したいと私たちは真剣に考えています。
なぜ、間接的介入のあるべき姿を考えるのか。その答えは2つあります。1つは、将来、現行の疾患別リハ料が包括化された場合の課題を事前に整理するため。もう一つは、包括化の有無は除外したとしても、より効率的に成果を出せるリハ部門を創造するためです。
一部の方が、今回の研修会は、リハ専門職の介護士化や転用、転職勧奨を示唆するものではないかとSNSで発信していましたが、決してそうではないことをまず強調しておきます。
では、まず、出来高払いと包括払いとは何かについておさらいします。
端的に解釈すると、出来高払いは過小診療を予防し、包括払いは過剰診療を防止します。
出来高払いとは、やればやっただけ算定できる仕組みです。したがって、量を増やすことに対してインセンティブが生じます。出来高払いの長所は、対象者の状態に応じて必要な医療を躊躇なく提供しやすくなることです。したがって、新しい医療を保険診療に取り入れる際は、出来高払いとして導入のインセンティブを設ける場合があります。この場合、多くの医療機関に浸透したのを見計らって、施設基準などの要件等に移行されることがあります。これが、いわゆる包括化です。
一方、出来高払いの短所は、やればやっただけ算定できることによる過剰診療の誘発です。また、実績を勘定する必要があるため、事務が複雑化するという短所もあります。
次に、包括払いとは、量を増やしても算定は比例しない仕組みをいいます。例えば、入院料に特定の診療料が含まれていた場合、その診療は必要以上提供しても算定できません。すると、量を最小限に減らすことに対してインセンティブが働きます。したがって、包括払いの長所は、過剰診療を防止できることに加え、実績を勘定する必要がなくなることによる事務の簡素化と言えます。
一方、包括払いの短所は、対象者に必要な医療が十分提供されない、過小診療の恐れがあることです。また、実績を勘定しなくなることで、診療実績から診療内容を確認することができなくなる短所もあります。
以上のことから、包括化は効率化への誘導と考えることができます。
現在の疾患別リハ料は出来高払いであるため、量を増やすインセンティブが働いています。これが包括化されると量を減らすインセンティブが働きます。つまり、包括払いでは、対象者に必要なリハ量は確保しつつも、それが過剰とならないような効率化が求められるようになります。
では、なぜ包括化を見据える必要があるのでしょうか。
診療報酬改定の変遷をたどると、包括化の流れは医療におけるリハ業界にも既に身近であることが分かります。
大枠で見れば、1998年の1入院あたりの急性期入院医療包括払い制度の試行から始まりました。これは、特定機能病院に包括評価を導入し、その影響の検証などを行ったものです。この結果、1入院当たりよりも、1日当たりの包括評価制度の方が、1日の単価を引き下げるインセンティブが存在することなどが示されました。これらを踏まえ、2003年から、在院日数に応じた、1日当たりの定額報酬を算定する現行のDPC制度が導入されました。DPC制度の対象病院は段階的に増え、2020年4月には、1,757病院まで拡大しました。
一方、リハ業界における包括化は、2014年のADL維持向上等体制加算から始まります。これは、特定の病棟に専従のリハ専門職等を配置した場合の評価で、定期的なADL評価やADLの維持向上等を目的とした指導、安全管理、患者・家族への情報提供、カンファレンスの開催、指導等の記録をした場合に、患者一人につき入院日から14日間算定できる加算です。当初は患者1人1日につき25点でしたが、現在では80点まで増額されました。ただし、ADLの低下した患者の割合が3%未満であることや、院内で発生した褥瘡患者の割合が現在は2.5%未満ですが、当時は1.5%未満というアウトカム評価が設けられました。これは、包括化による過小診療を防ぐための要件と考えることができます。
また、同じ年の2014年に、地域包括ケア病棟入院料が新設されました。これは、入院料としての施設基準の中に、リハを提供する患者は1日平均2単位以上リハを提供することが定められたもので、事実上、下限を設けられたリハの包括化とも言えます。もちろん、この場合においても、アウトカム評価とも言える在宅復帰率が設けられています。
そして2016年には、回復期リハ病棟におけるアウトカム評価に、リハビリテーション実績指数が加えられました。これは、短い在院日数で機能的自立度を一定以上高められない場合は、6単位を越える疾患別リハ料は包括化するというものです。つまり、一定水準以上の成果が得られないリハは算定できないため、粗診粗療の抑止策と考えることができます。
これらを受け、2020年には、当時の日本慢性期医療協会の武久会長が、「そろそろリハに関する包括評価を導入してはどうか」と記者会見で発言しています。こうした背景から、将来リハが包括化されても不思議ではなく、仮に包括化されなかったとしても、より効率的に成果を出せるリハ部門のあり方を創造することは有用であると私たちは考えています。
では、次に、直接的介入と間接的介入とは何かについて定義します。
ここでの直接的介入とは、現行で疾患別リハ料の単位として算定できる20分以上の個別療法を指します。一方、ここでの間接的介入とは、現行の疾患別リハ料で算定できない、いわゆる単位に縛られない介入を指します。
直接的介入で運営上求められる視点は、過剰介入の抑制と過小介入の回避です。過剰介入であれば、非効率な介入などを改めることが求められ、過小介入であれば人員不足などを補う必要があります。ただし、いずれにしても、対象者ごとに必要な単位数が明確でないとその判断はできません。
一方、間接的介入で運営上求められる視点は、セルフエクササイズなどの対象者による介入と、他職種や家族、ロボットなどの対象者以外による介入です。ただしこの場合は、リハ専門職に課題解決力がないと、対象者に有益な介入をマネジメントできません。
間接的介入の手段の具体例は前述しましたが、課題や限界も想定されます。それは、直接的介入の中では適宜行われている、対象者のモニタリングやプログラムの適正性の評価、また、それに伴う計画の再立案、その他にも、介入に対する安全性の担保、介入に要した家族や他職種等の負担などです。
これらの根本は、持続的にリハ専門職の目が届かなくなることに起因しています。したがって、間接的介入を拡大する場合は、これらの課題や限界を乗り越える手段の一つとして、デジタル化やDXと略されるデジタル・トランスフォーメーションの利活用が必須となるだろうと想像します。
他方、介入種別に関わらず、リハ専門職が追求すべきは便益の最大化であると考えます。
ドラッカーは、リハ専門職、正確には理学療法士を知識テクノロジストに区分しています。知識テクノロジストとは、知識労働者であるとともに、肉体労働者でもある人々を指します。
一方、リハ専門職が追求すべきものは、対象者と経営者に対する便益であることは共通理解と想像します。一般論として、知識労働者では、便益となる仕事の成果と、費やした時間は無関係であり、むしろ時間で評価することにより生産性が低下する場合もあります。この、成果と時間が必ずしも比例しない、知識労働者としてのあり方が間接的介入ではないかと私たちは考えています。
では、なぜ、間接的介入を「今」考えるのかについて解説します。
業界全体で発展するには、それを公表するタイミングが重要と考えています。その実例として、まずは異業種の例を紹介します。冷凍食品事業などで国内最大手のニチレイフーズという企業があります。このニチレイフーズは、2002年に日本の味おむすびという冷凍おむすびの販売を開始しました。この冷凍おむすびは、今の冷凍おむすびと比較しても、遜色のない品質だったそうです。しかし、この冷凍おむすびは、わずか2年ほどで店頭から姿を消しました。その理由は、当時はまだ、ご飯はいつでも家にあり、おにぎりは家で握るものという理由で、価値が認識されていなかったためと考えられています。
つまり、どれだけ有用と考えられるものでも、それを公表するタイミングが適さなければ求められないということです。私たちは、全国のリハ専門職の方々と「共に」間接的介入について考え、業界全体の発展に寄与したいと考えています。
そこで、今年の2月、ツイッターで、間接的介入の価値への関心について調査を行いました。それは、間接的介入という診療報酬に直接反映しないものの議論は、私たちの業界では時期尚早かもしれないと考えたためです。
しかし結果は、692名の方にご回答いただき、そのうちの7割の方は、間接的介入の価値に関心があることが分かりました。ツイッターでの調査ではありますが、間接的介入を議論するタイミングは今、と私たちは考えました。
また、診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等の報酬が同時に改定される、いわゆるトリプル改定が2年後の4月に予定されています。
財務省は、一般会計の約35%を占める社会保障関係費の増加を抑制しようとしていますが、社会保障関係費の内訳を見ると、医療がその影響を受ける可能性は低くはないように感じます。
どのような改定が行われるか現時点では分かりませんが、医療の効率化が加速した場合、いずれリハが包括化されてもやはり不思議ではないように感じます。
私たち、全国病院経営管理学会リハ専門委員会では、リハ専門職の包括化を見据えた、効果的・効率的な介入のあり方を創造し具現化することを3年後(2024年度)のビジョンとしています。
その到達に向けて、今年度(2022年度)は間接的介入の実態の把握とあるべき姿、来年度(2023年度)は課題の明確化と課題解決の具体策の明確化、再来年度(2024年度)は実現可能な間接的介入と期待される成果を活動計画としています。
以上、私たちの委員会の目指すところと活動内容について紹介しました。
私たちリハ専門職は、外部環境の予測と適応に加え、知識テクノロジストとしてのあるべき姿についても議論を尽くす必要があると感じます。
長文となりましたが、最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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