リハ専門職は何を目指し、どう育成すべきなのか?
本noteは、全国病院経営管理学会主催「令和5年度リハ専門委員会報告会」で筆者が講演したイントロダクションの一部です。われわれの活動およびリハ専門委員会報告会の様子を広く知っていただくことを目的として公開しています。
多くの方が、リハ専門職の現在と未来を考える契機となれば幸いです。
リハ専門職は何を目指し、どう育成すべきなのか。その答えは、「間接的にも成果を示すことができる専門職を目指し、見通しのある、段階に応じた育成を行うべきではないか」とわれわれは考えています。
リハ専門職を取り巻く外部環境
わが国の人口ピラミッドは、2020年時点ですでに「つぼ型」です。つぼ型は、高齢者人口の割合が多く、15歳未満の人口の割合が少ない型です。2045年には、わが国の人口ピラミッドのつぼ型はさらに進行します。
このことから、わが国は確実に労働人口が減少するため、リハ専門職のなり手不足(新卒採用の縮小)や社会保障費の肥大は避けられないことがわかります。
新卒の採用が縮小すると、病院に勤務するリハ専門職の人口ピラミッドもつぼ型となります。近年になり、成果主義や目標管理制度などを採用した病院もありますが、30歳代から40歳代までの子育て世代の生活費を保障する必要性から、年功序列型賃金からの完全な脱却はかなり難しいと推測します。
つまり、新卒採用が縮小したリハ部門は、これまでと同じことを続けているだけでは、必ず高コスト部門になることが想像できます。
日本作業療法士協会では、作業療法5・5(Go!Go!)計画を2008年から推進していました。これは、作業療法士の5割を身近な地域に配置して地域生活移行支援を推進するというものです。つまり、医療領域の作業療法士の配置割合は5割とし、残りの5割は保健・福祉・教育等の領域に配置することを目指していました。
しかし、直近のデータによると、医療領域の作業療法士の配置割合は73%です。平成14年(2002年)から平成26年(2014年)のトレンドを見ると、介護領域に従事する作業療法士は年間約2,400名ずつ増加しています。しかし、作業療法士全体での増加割合では24%程度であるため、医療領域の配置割合は今後も変わらないことが推測されます。
厚生労働省の医療従事者の受給に関する検討会による「理学療法士・作業療法士の受給推計(案)」によると、リハ専門職の時間外労働時間を年間0時間、1年あたりの有給休暇追加取得日数を20日としても、2027年頃には理学療法士と作業療法士の受給は逆転する試算が示されています。
一方、平成28年(2016年)の厚生労働省の医療従事者の受給に関する検討会の資料では、最も低い回復期では29.6%、最も高い高度急性期では69.5%の医療・介護福祉施設で人員不足間を感じています。現在では緩和した可能性もありますが、筆者の肌感覚としては、高度急性期や急性期の人員不足感は残存している印象があります。
そのような中で、診療報酬における包括化はリハ専門職にも身近なものとなりつつあります。
具体的には、2014年にADL維持向上等体制加算と地域包括ケア病棟入院料が新設されました。また、2016年には回復期リハビリテーション病棟にリハビリテーション実績指数が導入され、実績指数を下回る場合は6単位以上の疾患別リハ料が包括化されました。そして、2020年には、当時の日本慢性期医療協会の会長が、リハに関する包括評価の導入を提案しています。
以上のことから、リハ専門職を取り巻く外部環境は、「なり手不足に伴う高コスト部門化」と「介護・福祉領域の人材不足」および「診療報酬の包括化の可能性」があると考えることができます。
リハ専門職を取り巻く内部環境
日本理学療法士協会の資料によると、新卒の理学療法士は即戦力とはなりにくく、卒後教育の重要性が示唆されています。
具体的には、2000年から2010年までのトレンドにおいて、卒業直後の理学療法士は「ある程度助言を要する」者の割合は減少し、「多くの助言を要する」者の割合が増えています。このことから、卒後教育の重要性がうかがえます。
近年のリハにおける診療報酬は、間接的な集団療法等の介入から直接的な個別療法に移行しました。
1974年の改定では、理学療法、作業療法、言語聴覚療法ともに15分以上の「簡単なもの」という算定項目がありました。これは、1回に3人まで同時にリハを行えるというもので、リハ専門職には間接的な介入のスキルが求められました。また、2002年の改定では、同時に3人実施可能な集団療法がありました。しかし、2006年の改定で集団療法にかかる評価は廃止され、マンツーマンで直接的に介入する個別療法のみとなり現在に至ります。2014年の改定でADL維持向上等体制加算と地域包括ケア病棟入院料が新設されたことで、リハ専門職に再び間接的な介入のスキルが求められるようになりましたが、多くのリハ専門職は直接的に介入する個別療法しか経験していない状況があります。
以上のことから、リハ専門職を取り巻く内部環境は、「新卒レベルの低下」と「間接的介入の経験不足」という弱みがある一方、近年では産業や司法、他業界の対象者に対する活動と参加への需要の高まりという強みの両面があると考えることができます。
育成の視点からみたリハ専門職業界のクロスSWOT
以上の外部及び内部環境分析を基に育成の視点からリハ専門職業界を分析すると、低頻度および短時間、あるいは間接的な介入でも成果を示すことができるリハ専門職の育成が求められると考えることができます。
間接的介入ができるリハ専門職育成のステップ
全国病院経営管理学会および日本病院会の会員病院を対象とした調査により、リハ専門職の育成のステップが明らかとなりました。
具体的には、① 先輩や上司が立案した治療プログラムを指示・指導のもとで個別療法が実施できる。② 自ら治療プログラムを立案し、単独で個別療法が実施できる。③ 自主トレ・生活指導および退院支援など、個別療法以外のプログラムを患者・家族に実施できる。④ リハ専門職チームをマネジメント(助言・指導含む)することができる。⑤ 他職種・他部門に対して助言・指導・調整ができるの順のステップです。
筆者は、リハ部門の規模や体制により育成のプロセスは異なるのではないかと考えています。
リハ部門の規模が大きい場合は、「疾患別の組織(部署)に分化」した方が部門運営が効率的です。また、リハ部門の規模が小さい場合は、「単一の部門」とした方が効率的です。
したがって、疾患別に分化した組織の場合は、まずは限局した疾患の対象者に対して直接的な介入を行えるようになり、次に限局した疾患の対象者に間接的な介入が行えるようになり、最後にさまざまな疾患の対象者に間接的介入が行えるようになるという育成段階が想像できます。
一方、単一の部門の場合は、まずは限局した疾患の対象者に対して直接的な介入を行えるところから始まるのは同じですが、次はさまざまな疾患の対象者に直接的な介入が行えるようになり、最後にさまざまな疾患の対象者に間接的介入が行えるようになるという育成段階です。
筆者はこれを、「組織規模に応じたリハ専門職の育成段階仮説」と名づけました。
よくある育成の課題
全国のリハ部門の管理監督者の方とのお話や自身の経験を振り返ると、育成の課題は以下の5つに集約される印象があります。
具体的には、① 新卒者以外の教育の仕組みがない。② 階層別教育やキャリアラダーがつくれない。③ キャリアラダーと人事効果が連関(リンク)しない。④ 間接的介入を育成する系統的仕組みがつくれない。⑤ 教育の仕組み自体が形骸化してしまう。の5つです。
終わりに
全国病院経営管理学会主催「令和5年度リハ専門委員会報告会」では、この後に、全国病院経営管理学会および日本病院会の会員病院を対象とした「リハ部門における教育の現状に係る調査結果報告」、川崎幸病院の浅田浩明氏による「リハ専門職のキャリアラダーと人事効果の連関の取り組み」、八千代病院の寺田秀範氏による「間接的介入ができるリハセラピストの育成」、耀光リハビリテーション病院の田代伸吾氏による「階層別教育の実際と形骸化防止のコツ」の講演と意見交換を行いました。
われわれの活動およびリハ専門委員会報告会の様子を広く知っていただけたかと思います。よろしければ、われわれと一緒に職員及び患者満足度の高いリハの在り方の創造や、リハ専門職の視点を活かした組織マネジメントの具現化、病院経営に寄与するリハ部門の在り方を希求しましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。