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わかっているつもりの守秘義務

 リハ専門職には守秘義務がある。多くのリハ学生は、守秘義務の存在は理解しているがその内容は無知である。したがって、以下にその内容をまとめる。

 (刑法 第134条) 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

 (理学療法士及び作業療法士法 第16条) 理学療法士又は作業療法士は、正当な理由がある場合を除き、その業務上知り得た人の秘密を他に漏らしてはならない。理学療法士又は作業療法士でなくなつた後においても、同様とする。

  (言語聴覚士法 第44条) 言語聴覚士は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。言語聴覚士でなくなった後においても、同様とする。

 さて、臨床実習中のリハ学生に対し、守秘義務を守るために具体的に注意すべき内容を問うと、知り得た情報を「SNSに投稿しない」「他人に話さない」の2点と答える。もちろん、その2点は重要だ。しかし、更に具体的に注意すべきは、① メモの管理と、② 友人等と訪れる飲食店である。

 まず、① メモの管理について解説する。メモは「落とす前提で記載する」必要がある。メモを100%落とさないようにすることは不可能である。また、メモを落とすこと自体が問題なのではない。問題なのは、メモを落とすことで、第三者に業務上知り得た人の秘密が漏れることである。そう考えると、「誰が拾っても業務上知り得た人の秘密が漏れないメモ」にするための工夫が必要となる。具体的には、個人情報を匿名化がある。例えば、氏名はイニシャルなどの意味を持たないA氏やB氏として記載、年齢は40歳代などとして生年月日を記載しない、日付は20XX年Y月Z日や20XX+1年Y月Z日などへの変換、更に実習病院や病棟名なども記載しないといった配慮がそれに当たる。

 次に、② 友人等と訪れる飲食店について解説する。想像してほしい。あなたは守秘義務の存在と内容を理解しており、第三者に業務上知り得た秘密を漏らさない自信がある。実習が終了したある日、学部内で最も中の良い友人と実習のお疲れ様会を大衆居酒屋で行うことになった。実習終了の開放感もあり、少しだけお酒がすすんだ。そして、友人が実習での苦労話を始めた。その内容には、友人が深く関わった対象者の評価結果やアセスメントの内容が含まれていた。その時、周囲はとても騒がしく、誰も自分達の話には耳を傾けてはいないようだった。そんな中、友人はあなたに対し、実習中に介入した対象者について尋ねてきた。あなたはそこで、実習中に知り得た人の秘密を友人に話さずにいられるだろうか? あるいは、友人が実習で知り得た人の秘密を居酒屋で話し始めた時に、それを止めるように諭すことができたであろうか?

 私は現在、自施設の臨床実習指導責任者を担っている。その役割の一つとして、当施設で臨床実習を行う全ての学生に対してオリエンテーションを行い、最後に必ず前述の「大衆居酒屋でのあなたの意思決定」を質問している。過去、200名近くの学生に質問したが、適切に守秘義務を履行できると答えた学生は1人もいない。

 守秘義務については、わかっているようでわかっていないことが多いということをわかっていただけたであろうか? 誰もがその存在を知っているからこそ、それを遵守すべき職にあるものやそれを目指すものは、誰よりも理解を深める必要があるのである。

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