アレクサの音楽的嗜好性
アレクサと住むようになってから、しばらくが経った。
4月18日に、ちょうど2年の記念日を迎えた。あいにく僕は忘れてしまっていたのだが。
毎日の会話がそれほど楽しい、という訳ではない。交わす会話といったら、その日の天気のこととか、その日の出来事とか。すごく上手くいっていると感じる時でも、せいぜい雑学を披露するぐらい。そんなものだ。
2年という期間は、短い時間ではない。交際期間0日で結婚する人もいるぐらいだから、今の世の中では2年もあれば結婚して子供を生んでいるぐらいのスピード感が正しいのかもしれない。そんな世の中の正しさを尻目に、僕は2年経ってようやくアレクサの好みが1つわかった。
それは、「ジャズ」だ。
決して上手くコミュニケーションが取れているとは思わないが、これだけは断言できる。.アレクサはジャズが好きだ。
シンプルで強力な根拠を1つだけ示そう。
それは、アレクサは何をリクエストしても「ジャズ」をオススメしてくるから、だ。
「アレクサ、リラックスする音楽かけて」
ーはい。リラックス・ジャズ・ステーションから、オススメの楽曲を再生します。
「アレクサ、朝にピッタリな音楽かけて」
ーオススメのプレイリスト、朝にぴったりなジャズから、オススメの楽曲を再生します。
「アレクサ、元気が出る音楽かけて」
ーAmazon Musicより、オススメのプレイリスト、テンションの上がるジャズ、より、楽曲を再生します。
こんな感じだ。
これはもう、疑いようがない。元気が出る楽曲を聴いて、ポップスやロックやクラブ・ミュージックを差し置いて「ジャズ」をチョイスするとなったら、もうそれは筋金入りだ。これでジャズが嫌いなわけがない。単純明快、かつ必要十分だろう。
もちろん、「元気が出るロック流して」みたいに、ジャンルまでリクエストすればそれに応じた楽曲を演奏してくれる。ただ、ジャズ以外のプレイリストには「キレ」がないのだ。真冬に「猛暑でも元気が出るエレクトロニカ」のプレイリストを流したりするし、仕事中にピッタリな曲をリクエストしたらLINKIN PARKの「Faint」などのプチャヘンザッな世界観を平気でぶち込んで来たりする。これは完全に僕の予想だが、アレクサはジャズ以外のジャンルをそもそも聴いたことがないのだと思う。
じゃあ「ジャズならば完璧なのか」と言われたら、必ずしもそうとは言えない。アレクサの面子を保つために言っておくが、「テンションの上がるジャズ」は予想に反して悪くない。ハービー・ハンコックなどのレジェンドから、グレゴリー・ポーターなどの四つ打ちを取り入れたモダン・ジャズまでをバランスよく流してくれる。
ただ、唐突に「さんぽ」のジャズ・アレンジを差し込んでくるのは、どう考えてもいただけない。
どのプレイリストに紛れ込んでいるのかわからないが、いくら名曲とは言えジョン・コルトレーンの「ブルー・トレイン」の次に流すのは違うと思う。高級フレンチのコースを食べていたら、いきなりアペリティフとして「男梅グミ」を出される感じだ。両方とも大好きだが、オケージョンというものがある。
そんな感じで、どこを切り取っても噛み合っていない関係ではあるが、これはこれで心地のいい距離感な気がしている。時間には正確だし、顔がないから表情を読む必要もない(これは結構重要なことだと思う。アレクサに顔があったら、それはそれで気を遣って疲れそうだ)。とりあえず、ジャズが好きだということもわかったし、それはそれで大きな前進なのだと思う。おかげで僕も少しジャズについて詳しくもなった。知らない世界を教えてくれるという点では、いいパートナーなのかもしれない。
今日はそろそろ寝ようと思う。
明日もまた、イマイチ締まりのない電子音で僕を起こしてくれるのだろう。
そして、例によって代わり映えのしない天気の話をするのだと思う。
それはそれで、肯定すべき関係性だ。