隠者の竈(かまど) 地下室のロケットペチカ(1号機製作編)【週末隠者】
過去2回分の話で、「薪ストーブから発生した不完全燃焼ガスを外部に接続したヒートライザーで2次燃焼させロケットストーブ化」というアイディアは一応の成功を見ました。詳細はこちら。
※試作0号機構想編
※試作0号機製作編
続いて「薪ストーブとロケットストーブからの熱を蓄熱し、火を消したあともゆっくりと放熱させることで長く部屋を暖める」というペチカ化に取り組むことになります。ただ、その前にまず「ペチカ」とは何かについて説明しておく必要があります。
欧米での薪を使った暖房で真っ先に思い浮かぶのはおそらく「暖炉」で、ペチカについても普通の暖炉と同じようなものと思っている人は多いようです。実際、私自身も子供の頃読んだロシア民話「カマスの命令」で初めて「ペチカ」という言葉を知ったのですが、本の中でのペチカについての説明は「ロシア式の暖炉」というだけのあっさりしたもので、通常の暖炉と何が違うのかはよく分からないままでした。
ところで、この暖炉というのは実は非常に熱効率の悪い暖房器具で、発生した熱のほとんどはそのまま排気と一緒に煙突から外へと抜けてしまい、実際に部屋を暖めるのに使われるのは発生した熱のわずか10%程度(18世紀に発明された改良型のフランクリン・ストーブでは40%程度まで向上)と言われています。これに対してペチカでは、通常の暖炉ではそのまま排出されてしまう燃焼後の排気を石やレンガで作った煙道の中に通し、そこに熱を蓄積して後からゆっくり放熱させることで90%にも達する熱効率を実現しています(注1)。
つまり、火を燃やす暖炉ではなく、この蓄熱部分こそがペチカの本体と言えるでしょう。逆に言えば燃焼部分は必ずしも暖炉である必要はなく、薪ストーブや石炭ストーブ、灯油ストーブなどでも構わないのです。
なお、私がD市に庵を探してネットの不動産情報をチェックしていた時、最初に候補にした家(森の中ではなく街中の比較的便利な場所だったためか、下見に行く間もなく売れてしまいました)にもペチカが付いていたようです。こちらも、写真を見た限り燃焼部分は暖炉ではなく箱形をした薪ストーブか石炭ストーブのようなものでした。
この高い熱効率を誇るペチカを、同じく燃焼効率(注2)が90%を超えるとされるロケットストーブと組み合わせることで、薪のエネルギーを無駄にせず最大限に引き出すことができるのではないかと考えました。
注1:もっとも私のペチカは煙道がそれほど長くないためもう少し熱効率は下がるかもしれません。
注2:時々「燃焼効率」と「熱効率」が混同されているのを見かけるため、補足として違いを説明しておきます。「燃焼効率」は燃料(この場合は薪)が蓄えている化学エネルギーをどれだけ(燃え残りや不完全燃焼などのロスを減らして)効率よく燃焼させて熱に変えることができたか、それに対して「熱効率」は発生した熱をどれだけ(廃熱などの形で逃がさずに)有効に利用できたか、というのが本来の意味です。例えば燃焼効率が95%、熱効率が80%の場合、0.95×0.80=0.76で、燃料が本来持っていたエネルギーの76%が有効に利用されたことになります。
後から改良した部分も含め、【図1】がそのペチカの模式図です。具体的な機能と使用の手順は以下の通りです。
①使用前にダンパーを開き煙突に通気
②煙突下の焚口で小さな火を焚き、煙道の中に上昇気流を作る。煙突部分が暖まり、ペチカ内に煙突へと向かう空気の流れが生まれたら焚口を塞ぐ
③発生した吸引力により薪ストーブ本体の吸気口から1次燃焼用、ヒートライザー下部の吸気口から2次燃焼用の空気が供給される
④薪ストーブの中で火を焚き1次燃焼を起こす
⑤1次燃焼で出た不完全燃焼ガスがヒートライザーに排出される
⑥ヒートライザーの中で2次燃焼。発生した上昇気流が吸引力を生む
⑦ヒートライザー内の熱を上部の放熱板から放出
⑧放熱板で冷やされた燃焼後の空気が下向きの煙道の中に下降気流を生んで追加の吸引力を作る。以降、③~⑧のサイクルが連続して燃焼が続く
⑨薪ストーブ本体と上部の放熱板の熱で暖房・調理
⑩煙道内の熱をペチカに蓄熱
⑪熱を利用した後の排気は煙突から排出
⑫火を消したあとはダンパーを閉鎖してペチカの熱が煙突に逃げないようにする。あとはペチカに蓄えられた熱がゆっくり放出されて部屋を暖める
前置きが長くなりましたが、以上の構想を元に実際の製作に入ります。なお、以下の写真は後から行った改良時のものも含むため、必ずしも時系列順に並んではいません。
今回は恒久的な設置となる予定なので、赤レンガ製の土台だけはセメントで固めて作ります【写真1】。
ペチカの1段目となるレンガと薪ストーブを接続するメガネ石(右)を配置したところ【写真2】。試作機でも意外に煙の漏れは見られず、後から改良する余地も残しておきたいため、今回もセメントは使わず耐火レンガを積むだけで作っていきます。右側の少しへこんだ部分は2次燃焼のための吸気口、左下の突出部分は煙突下の焚口となる部分です。
さらにレンガを積んでいきます【写真3】【写真4】。【図1】にある通り3本の煙道が縦に並ぶ形となります。
通常の1倍半の長さのレンガが必要になる部分があり、ネットで探したものの見つからなかったため、通常の2倍の長さのレンガをレンガ用の糸ノコで切断して自作します【写真5】。
いちおう完成【写真6】。煙突のダンパーはこの時はまだ付けていませんでした。ヒートライザー上部に載っている鉄板も梱包されたままです。
上記の通りセメントで固めてはいないため、地震で崩壊したりしないよう、気休め程度に周囲を鉄枠で補強しておきました【写真7】。このあともこまごまと手を入れています。
ともあれ完成です。さて、実査に使ってみた結果はどうだったか。次回に続きます。
※使用編
※総括編