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隠者の竈(かまど) 地下室のロケットペチカ(試作0号機構想編)【週末隠者】

 北海道の中では温暖と言っても本州に比べればD市の冬はかなりの寒さです。年間の最低気温はマイナス10℃を下回り、最高気温が氷点下の真冬日も珍しくありません(ただし雪はさほど多くない)。当然、慣れや根性でどうにかなるものではなく、暖房をどうするかが重要な問題になってきます。
 いちおう前の持ち主が残してくれた石油ストーブが居間に置いてはあるものの、化石燃料の消費はなるべく抑えたいので、薪ストーブの導入を考えてみました。
 山林の中にある家ですから、薪の原木そのものは、落ち枝や倒木、間伐や枝払いで出た木などを適当に切るだけで十分に手に入ります。というより、それでもおそらく消費しきれません。退職してフルタイムの隠者になったらそうした木を使ってキノコ栽培かクワガタムシの養殖あたりができないかと考えています。
 薪ストーブを選ぶにあたっては2次燃焼(注1)の機能を持ったものを探すことにしました。燃焼効率が上がるので薪の消費を抑えられる(注2)ほか、大きなメリットとして、ヤニやススの発生が減るため、煙突掃除の手間が軽減されることがあります。
 というわけで市販品の薪ストーブで良いものがないか物色してみたものの、鋳鉄製・2次燃焼機能付きのものになると価格が本体だけで十万円から数十万円以上します。おまけに重さが100キロほどもあって一人では動かせません。さらに煙突も専用のものに交換する必要があり、受け取りも普段住んでいない家では難しいなどハードルが高く、結局断念することになりました。
 ただ、そこで諦めてしまうのも何か残念です。せっかく薪が大量に手に入るのですから、どこかに薪ストーブを設置して暖房のほか雪の積もる冬や雨の日など外の竈が使えない時の炊事にも使えないかと考えてみました。

注1:薪の不完全燃焼により発生したタールや木質ガスなどの可燃性成分を再度燃焼させること。触媒を利用したり2次燃焼のための燃焼室を別に作ったりと方法はいろいろあります。
注2:原木は潤沢でも、切ったり割ったりの薪作りや運搬の手間、保管のためのスペースなどはなるべく減らしたいところです。

【写真1】庵の地下室

 以前少し触れたように、庵の半分ほどは基礎を兼ねたコンクリート造りの半地下室(以下「地下室」)の上に建っていて、地下室の上が書斎を兼ねた寝室と居間になっています【写真1】。地下室の壁には外に通じる煙突穴があり、以前家の傷んだ部分を修理した時に業者の人に頼んで煙突も設置してもらっています。そこで盛大に火を焚いて地下室全体を暖めれば、上にある寝室や居間への冷え込みが緩和されるのではないかと思いつきました。ついでに炊事もできます。

【写真2】昔買った薪ストーブ

 ちょうど就職直後に買ってしばらく使ったきり退蔵していた鉄板製の安い薪ストーブ(ホームセンターで5000円程度で売っているもの)があったため、それを再利用することにします【写真2】。形は多少違うものの、一般に「時計型ストーブ」と呼ばれている製品とほぼ同じものです。構造は鉄の箱に煙突穴を付けたようなシンプルなもので、むろん2次燃焼の機能などはついていません。2次燃焼を起こすにはストーブの内部を改造するか外部に別の仕組みを作るかになりますが、内部の改造は難しいため、薪の不完全燃焼で発生する可燃性ガスを外部に作ったヒートライザー(注3)の中で燃焼させるというロケットストーブ化を考えてみました。これは、太い薪が使えず燃焼中は付きっきりで燃料をくべねばならない通常のロケットストーブではなく、大きな薪や炭火の利用もできるようにするという目的もあります。
 前に書いたように、ロケットストーブ自体は既に家の外に1基作って炊飯等に使っていたので、そちらの経験も取り入れることにします。詳細については以下の記事を参照してください。

注3:ロケットストーブで垂直の煙突状になった部分。引用記事参照。

※理論編

※製作編

※実践編

 ネットで調べると、薪ストーブをヒートライザーに接続してロケットストーブ化する改造は他にもやっている方がいるようです。私の場合、薪ストーブ本体とは別にヒートライザー下部に吸気口をつけ、2次燃焼のための空気を供給することにしました。さらに、発生した熱をヒートライザーそのものに蓄熱してペチカのような使い方ができないかとも考えました。

【図1】ロケットペチカ(試作0号機)模式図

 ただ、あれもこれもと詰め込んで失敗した場合、原因がどこにあるのか分からなくなるので、まずは「薪ストーブとヒートライザーを接続してロケットストーブ化」という点に絞って試作版を作ってみることにします。こうしてまとめたのが【図1】です。構想としては、以下のように動いてくれることを期待しています。

薪ストーブ本体の吸気口から1次燃焼用の空気を取り入れ
薪ストーブの中で1次燃焼
1次燃焼で出た不完全燃焼ガスがヒートライザーに排出される
ヒートライザー下部の吸気口から2次燃焼用の空気を供給
ヒートライザーの中で2次燃焼。発生した上昇気流が吸引力を生み、①~⑤のサイクルが連続
薪ストーブ本体から出る熱で暖房・調理
薪ストーブからの廃熱と2次燃焼で出た熱をヒートライザーに蓄熱し、ペチカとしてゆっくり放熱
煙突から排気

 オリジナルの部分としては、本来煙突となる部分をそのままヒートライザーとして2次燃焼に使用することと、ヒートライザー下部に2次燃焼用の吸気口を設けたこと、ヒートライザーをペチカとして蓄熱にも使うことあたりでしょうか。ともあれ構想はまとまりましたので、実地の製作に向けて準備を進めます。
 地下室とはいえ屋内で恒久的に使う予定のため、多少高くついても、ここはきちんと耐火レンガを使って作ることにします。20キロほど離れたM市のホームセンターで土台用の赤レンガと合わせて200個ほど購入し、1人で1度に運べる量ではないので配達してもらいました。
 薪ストーブ本体及び煙突との接続部にはケイ酸カルシウム(硅カル)製のメガネ石を使用することにしました。耐熱温度が1000℃あり、しかも非常に軽くて扱いやすい素材です。ただし簡単に傷ついたり割れたりするので慎重に取り扱う必要があります。値段もコンクリート製よりだいぶ高くつきますが、上記の参照記事にある通りコンクリートはロケットストーブの高温では劣化してしまうため今回の用途には不適です。そのほか、煙突、セメント、通販で購入した特殊な形状の耐火レンガなど、材料を揃えるのにかかった費用は10万円少々。一番安い2次燃焼付きの鋳鉄製薪ストーブ本体の価格と同じくらいです【写真3】

【写真3】用意した材料(中央下)

 さて、この費用をかけてどれだけのものができるか。次回以降では実際の製作と使用に入ります。

※試作0号機制作編

※1号機製作編

※使用編

※総括編


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