2020.04.25 2人の「北川」の人生が交錯した日… 近鉄2001年優勝の陰に消えた未来の話
mixi, Twitter, 各種Blog... 自分がモノを書くプラットフォームを新しくするたびにいつも話しているトピックがある。
プロ野球が観れなくて寂しくて仕方がない昨今。NHK では、毎週金曜日に過去の名試合を放映してくれて、かなり癒しになっている。ありがたいことだ。昨日の放送は、2001年、大阪近鉄バファローズが最後の優勝を遂げた2001年9月26日の対オリックス・ブルーウェーブ戦。史上最も劇的と言われる代打サヨナラ満塁本塁打による優勝決定は、今更の紹介は不要だろう。
小学6年生だった私の家では BS 放送を見ることが出来ず、日本テレビで放映されていた巨人対広島の試合を見ながら、逐一入る速報でこの試合の経過を追っていた。オリックスの勝利をほぼ確信しながら、日本テレビのアナウンサーが「驚愕の幕切れです」と少々うろたえながらこの試合の結果を伝え、9回裏のボックスに『4x』が入ったスコアが画面下部に出たシーンを今でも覚えている。
私がこの試合の経過を気にしていたのは、パ・リーグ優勝旗の行く末を気にしていたからではない。この試合、オリックスの先発マウンドに上がった北川智規が、私や当時の友人たちにとって唯一無二のヒーローだったからだ。
この動画は件の試合の1回裏だが、マウンドに上がったルーキー投手である北川智規の紹介にあるように、彼は横浜国立大学の出身。教育人間科学部 (いわゆる教育学部) に所属していて、この前年に小学校の教育実習生として彼が1ヶ月間通ったのが、鎌倉にある大学の附属校であり、彼が担当することになったクラスに居たのが私だった。
1つのクラスに4人もの大学生が帯同する教育実習期間は、5月の大型連休が明けた後の1ヶ月間。それから少し空いて、にわかに「これはすごいことかもしれない」となったのはその年のドラフト会議が目前に迫ってきた11月だった。ある日、家に届いた新聞を開き、日課であるスポーツ面の確認をすると、そこに特集されていたのがドラフト指名候補として注目されている北川智の記事であった。確かに野球部に所属している話は知っていた。しかし、まさか自分たちが日常的に憧れの目で見ているプロ野球に踏み入れるなんて話は想像だにしなかった。 (この朝日新聞の記事、川越高校野球部のウェブサイトで読むことが出来る。)
果たして北川智はドラフト7位でオリックスに入団した。BBM の発行するベースボールカードも、希望するクラスメイトの分までカードショップでしっかり仕入れた。週刊ベースボールの「週ベオーロラビジョン」で特集されて舞い上がったりもした。横浜ファンと巨人ファンが中心であるゆえにセ・リーグの話題ばかりだったクラスでの野球談義に、少しだけオリックスの話題が増えた。
2001年9月24日、母の見舞いに訪れた病室で観た近鉄対西武の試合、タフィ・ローズがシーズン55本目となる本塁打を放ち、中村紀洋がサヨナラ本塁打で試合を決めた。近鉄の優勝が目前に迫った。26日の朝、やはり日課である新聞のスポーツ欄の確認で目にした、オリックスの予告先発欄にあった「北川」の名。リュックに新聞を入れて家を出て、いつも友人と落ち合う横須賀線の始発電車の中でその新聞を見せて、沸いた。迷惑な小学生だった。
何よりも北川智がカッコよかったのは、シーズン本塁打の日本記録に並んだタフィ・ローズに真っ向勝負を挑んだことだった。この優勝決定の後、ローズは勝負を避けられるようになったことは、物議を醸した。対ローズに限らないが、この試合での北川智は、相手打者のストライクゾーン低めを丁寧につく。ローズには一二塁間を抜ける安打こそ初回に打たれるが、他の2打席は内野ゴロに抑えた。打球を上げさせない投球は素晴らしかった。
結局、打者3巡が終わったところで北川智は降板。6回2/3を2失点。球場一周、360°近鉄ファンのプレッシャーを受けていたことも踏まえると、120点満点の投球内容だったのではないか。
これに勝ち星が付けば、北川智の野球人生も違ったかもしれない、と、たまに思う。その一方で、この1週間後、再度近鉄打線と対峙した時には中村紀洋に本塁打を浴びるなどコテンパンに打たれてしまったことを思うと、やはりプロの世界は甘くないんだなぁとも思い知らされる。
方や、この劇的な試合のヒーローになった北川博敏も、引退後に「あの本塁打があってこれだけの長い野球人生を送れた」と語っている。この本塁打がなかったときにどうなっていたかなんてわからないけど、以降「あの本塁打を打った北川」となったのは事実。一つのプレーが、いろんな人の人生を大きく変えるんだなぁ、と、この本塁打を見るたびに思う。
早く野球が観たい。そのためにも Stay Home, Stay Healthy. 今週はこんなところで。
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