『どくどくドクドク独りのシ』を観た

長崎は樺島に在住のアーティスト、加藤笑平さんの企画『どくどくドクドク独りのシ』を観て来ました。
樺島は長崎市内から車で40分くらいの距離にある町で、福岡からだとおよそ2時間半の道のり
遠いな〜と思っていましたが、樺島までの道中は開放感があり、楽しくドライブ出来ました
今回の1番の目的は柿喰う客の玉置玲央さんが出演する『いまさらキスシーン』をこの目に抑える事でしたが、樺島が近づくにつれ、このような町まで来るお客さんはどんな人なんだろうと見に来る他の方への興味が強まりました。
実際観客は40人ほどいて、そのうち町の方が10数名いらっしゃいました。
僕と同じように比較的に長崎に近い土地から来ている方はもちろん、関東からお越しの方が10名以上いて、その観劇バイタリティに度肝抜かれました。

前置きはこのくらいにして、
そんな、『どくどくドクドク独りのシ』の感想を以下に綴っていきます。

加藤笑平 『Man body stand, Men spirit lying, for root from roots, cut and entirely voice』

1人の作業員の男性の日常生活をお客は観測しながら、彼の放つ詩を聞き取っていくような構成のお芝居。
劇場というか、劇空間は船着場の近くにある、樺島ストアハウス(元々は水産加工場?)
入口付近には海が見える開放的な窓?があり、平さんが描いた絵画(縦3m×横10mほど)が飾られている。
空間の奥に行けば行くほど、古びた機会の名残が見られ殺風景。
開演まで、観客は何となく空間の中央にスペースを作りながら、芝居の始まりを待っていた。
自分はL時の接点あたりの部分から、真ん中を見るように立っていたと思う。(後ろには作業場?)
開演と共に、その空気を叩き壊すかのように、背後の入口から、重たい扉をドンと空け、作業員(加藤笑平さん)が現れ、扉の周囲にいた方々は、彼の出現に驚き、道を譲る。
全てを事細かく説明しても、文字じゃ伝えきれないので、好きだった所を羅列していきます。
まず、登場が良かった。樺島の空気に馴染み緩んだ観客の心が一気に緊張感を持つ瞬間が好きでした。
そして、劇中で発動機(ポータブルエンジンというのかな?)とチェンソーを起動させ、空間の音量が一気に上がり、その中で男が詩を叫び続けるんですけど、この機械たちが僕らの命を握っているような感覚にさせてくれて、興奮しました。
安全上、大丈夫なんだろうなとは思いつつも、側に機械があるのは、すっごい怖い。 チェンソーもチェンソーマンとかに出てくるような、でかいタイプのやつでしたし。
とにかく、この作品に命を預けるような体験が新鮮でした。
そして最後、劇中で使用した道具達を、男から観客に捧げられて、愛の告白をされるんですけど、僕のところに回って来たのは、ラジカセでした。
パカって開けられたCDを入れる部分がプロポーズみたいで面白かった。あと、歯磨きを渡されている人もいて、それも良かったです。
そんな感じで、笑平さんのお芝居は終演しました。
樺島に身も心もボロボロ取り込まれるような一作でした。

玉置玲央『いまさらキスシーン』廃校バージョン

ストーリーについては言うまでもないでしょう。
大好き。愛してる。ビッグラブ。
そんな、尊敬する玲央さんの一人芝居。
まだ見ていない方は、YouTubeで見られるので、絶対見てください。
一人芝居のバイブルとまで思っています。僕は。
こんな愛が深い作品ですが、生で見るのは今回が初。とても価値ある体験をできたなと。
彼を目当てに関東からいらしている人もいて、本当に素敵な魅力を持った方なんだと再認識しました。
話を皆さんが知っている前提で、YouTube版と違った内容について触れていきます。
会場は樺島小学校。今は廃校になっています。
廃校になったのは今から10年ちょっと前らしいです。
夜の廃校なんていう、魑魅魍魎が跋扈するような場所。その教室のひとつが劇場となりました。
まず、どこからか「おーい」という玲央さんの声が聞こえるんですけどま、本当に声量が段違い。
「せすじを.…」の所とかも、声が凄まじすぎて、学校中を反響するんですよ。これだけで樺島まで来て良かったと思えました。
話を開幕に戻します。
ここまで、まだ彼女の御姿は見えておりません。
廊下を走る足音、ざわめく御客。ドアが開いた。その瞬間。
三御堂島ひよりが、そこに。
痺れましたね。まじで。
ひよりちゃんは徐ろにチョークを手に黒板へ、
『いまさらキスシーン』
痺れましたね。まじで。
『シ』の書き方が良かった。
そこからは、ご存知「せすじをピンとのばして…」と始まります。
僕はひよりちゃんに対して下手側の横側で見ていたので、12月の海風が冷やした彼女の体から白い息が出る様子まで見えました。これもまた乙でした。
そして、この廃校バージョン、最大の特徴なんじゃないかなという演出「目の前が真っ暗になりました…」からの、教室の明かりのスイッチをダンッと叩く、ひよりちゃん。
僕らの目の前も真っ暗になりした…
夜の真っ暗な教室の中、微かになれてきた視界と研ぎ澄まされた触覚と聴覚で、ひよりちゃんの動きを追っていると、客席を割って動く彼女がいて
プロセの舞台では絶対に味わえない劇場体験が出来ました。
物語の終盤、男前田先輩とのキスを宣言したひよりちゃんは、黒板に書かれた「いまさらキスシーン」のタイトルをサッと消し取り、もう無いかもしれない廃校バージョンは幕を閉じました。
感無量。
少し余談なんですが、俳優の肉体美の話なんですけど、玲央さんの身体は演劇をするために鍛え上げられたような、筋肉の作りをしているなと感じ、一方、笑平さんの肉体は、樺島の地が作りあげたような、野性味のある、雄々しい筋肉という感じがして、それもパッケージを繋げてみることで楽しめた要素だなと、勝手ながら思っています

山崎皓司『天下泰平』

廃校から移動して、塩釜の近くの草むら。
だいたい胸の高さくらいに舞台が用意され、その上に殿が既にいる。
これまで舞台と客席の教会はなく、作品と観客の境界はうっすら引かれるような、上演と打って変わって、舞台は明確に用意され、殿はめちゃくちゃ話しかけてくれる、そのギャップに安心感を覚えました。
そもそも、脚本がある演劇と言うよりは、ライブに近い構成の上演。
お客を楽しませたい、仲良くなりたいみたいなサービス精神溢れるもので、参加して気持ち良かったです。
お酒やお茶(山崎さんが作ったらしい)などを飲みながら、歌を聞く、知ってる歌があればお客さんも壇上にあがり、みるみるうちに宴会会場に変わっていきました。
作品単体で見ると拙く見えてしまうような1本でしたが、練度が極まった『いまさらキスシーン』の後で見ることで、樺島を練り歩きながら楽しむ今回のパッケージに見合った緩急があり、自分は楽しい時を過ごせたなと思います。

市子嶋しのぶ『鬼会』

今回の締めを飾る本作は。笑平さんが作品を披露した会場。
昼は外の方が明るく、グレーが際立つ場所でしたが、夜は中の明かりはほのかに灯り、暖かい空間へと変わっていました。
また、座席が用意されてあり、舞台であるエリアに焚き火がくべられ、集会が始まるような雰囲気でした。
内容について記していく前にひとつ、この作品だけは、自分の中で留めておきたいものなので、ものすごく抽象的になるかもしれません
始まると入口から鬼が現れ、鈴を鳴らしながら語り始める
しばらくして、市子嶋さん自身のお話と続いていきます。
はい、内容についてはここまで。
気になる方ごめんなさい。
この作品を見た感想としては、日常や樺島での一日を洗い出すような気持ちになれました。
作品と日常を見つめ直すような演劇体験は、これまで体験したことはありますが、この作品は、終わったあとのスッキリ感みたいなものが全然違いました。
堪能しました。

終わりに

樺島、本当に素敵な場所でした。
お昼に食べたトルコライスが美味しかったです。また行きたいと思うし、ここでの体験を自分の中で糧にしていきます。
記憶の断片を殴り書いたようなこの文章を最後まで読んでいただいた方、ありがとうございます。
今後もし、体験したいコトやモノを渋る理由が、その場所との距離にあるならば、簡単には諦めないようにしようと思います。
そんな気持ちにしてくれてありがとう樺島


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