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もう終わった、ことにしてはいけない

『福島モノローグ』という本を読み始めた。
いとうせいこうの本。

モノローグだから、ひとり語り。
いとうせいこうがしゃべるんじゃなくて、
被災者、か、支援者がしゃべって、
いとうせいこうは「傾聴」。

最初の章は「WITH COWS」。牛を飼う人のひとり語り。
もともと酪農をやっていたわけじゃなくて、
地元の人でもなくて、
ボランティアで福島に入り、
コンビニで生計を立てながら、
「迷い牛」たちを保護して、生かしている女性。

福島第一原発事故があり、大熊町など近隣地域は立ち入り禁止区域になった。
牛や豚や鶏やなんやかんやの家畜は置き去りにした。

彼女は牛の世話をしているから牛の話がメインだが、
牛舎から外に出られた牛は「迷い牛」と呼ばれて怖がられていたが、
牛舎から外に出たことがない牛にとって、「外」はホントに知らない世界。
側溝すら知らずに落ちてハマって溺死したり。
鼻に鼻輪つけられて杭にくくりつけられるようにして飼われていた牛は、

鼻輪が結ばれてるんですね。杭に結ばれたままなんです。農家は皆すぐに帰れると思っていいましたから。そして鼻輪と杭の感覚は十センチ程度しかないんです。力尽きてガクッと倒れようとしても、華が繋がっていて出来ません。一度で死ねたらブチッと切れていいんですけど、死ねないんです。しかも鼻輪って人間が扱いやすいようにすごい奥の方に付けちゃってるから。だからうちの牛たちは今、なるべく前にやっています。ともかく当時の牛たちは、ずっと鼻の奥が伸び続ける激痛の中で苦しみながら、それで死んでいった。
私はそれは絶対忘れません。忘れられないですね。忘れられないんです。

昨日、ひさしぶりに釜石に帰ってきた。
東京駅から新幹線に乗って、福島まで。
福島と仙台の間は、在来線(東北本線)に乗り換え。
3月16日に東北にまた大きな地震があって、
その影響がまだ続いている。
少しずつ回復してきているけれども、福島と仙台間が最後まで残った。

それで、仙台からまた新幹線に乗り換えて、新花巻まで。
新花巻からまた在来線(釜石線)に乗るんだけど、
普通なら乗り換えに便利なようにダイヤだ組まれているはずが、
仙台からの列車は本数を減らした「臨時便」だから、
在来線との接続が悪くなっている。
なので、列車と列車との乗り換えによる待ち時間がけっこうある。

けっきょく、普段なら5時間ぐらいで東京から釜石につけるところが、
福島、宮城、岩手、で8時間ぐらいはかかってしまった。

そして今朝、『福島モノローグ』を読み始めた。

終わってないな。
終わったことにしてはいけないな。


『福島モノローグ』 いとうせいこう 河出書房新社 2021年