やばい!バスを追いかけて猛ダッシュ!
くるっと振り向いて、ダッシュした。
「やっちまった!」
スノーブーツ履いてきてよかった。
釜石では雪なんかなかったけど。
「とにかく追いつかなきゃ!」
台温泉に来ている。
花巻温泉のとなりで、花巻温泉郷からクルマで5分ぐらい。
新花巻駅から花巻にあるいろんな温泉を回る無料の送迎バスが出てて、
新花巻駅の観光案内の方から教えてもらったのは、
「いちばん早いバスは花巻温泉までしかいかないけど、
そこまで台温泉の旅館から迎えに来てくれるかもしれないし……」
歩いていける?
「20分ぐらいかかりますけど……」
20分歩くのなんて、なんてことない。
出発時間が近くなって、駅の外にあるバス停から、無料送迎のマイクロバスに乗り込んだ。
バスは花巻温泉にあるいくつかのホテルまで乗客を乗せていく。
発車間際に運転手さんが、お客さんそれぞれにホテル名を聞いていく。
「どちらまで?」がわたしの番になって、
「台温泉行きます」、というと、
運転手さんはちょっと顔を曇らせたので、
「花巻温泉から歩いていきます」
機先を制していうと、
ああわかってんのね、という晴れた顔に直って、
「でも、旅館に電話して迎えに来てもらったら?」
と。
はい、そうします、
といいながら、booking.comのメールシステムをつかって、
「花巻温泉のセンシュウカクから歩いていきます」
と連絡した。
新花巻駅を出発して、30分ちょっとで花巻温泉に着いた。
千秋閣というホテルの前で降ろされるときに、
「歩いていきます!」
と告げると、運転手さんは「気をつけてね」と。
いい人だな、と思ってバスを降りた。
歩きだした。
位置を確認しようとポケットからスマホを取り出そうとしたが、
ない!
ない!どこだ!?
バスの座席ポケットだ!
くるっと振り向いたら、バスは遠くなったがまだ見える範囲。
ここでスマホがなかったら、台温泉いけないかも、旅館に電話もできないし。
なんにしろ面倒なことになる!
と、全力疾走。
100メートルぐらいは全力で走れたが、
バスは見えなくなった。
このまま追いかけるか、
それともここは温泉郷である。
バスは一回りしてこの温泉郷出入り口に戻ってくる可能性はある。
その可能性にかけしかない。
またくるっと振り向いて、元きた道を歩き戻る。
温泉郷の出入り口に着いたらすぐ、
あのマイクロバスらしき車影が遠くに見えた。
だんだん近づいてきて、ライトを付けたり消したり、パッシングからの合図だ。
助かった〜〜。
運転手さんに聞いたら、
わたしがスマホを置き忘れたかどうかは知らなかった。
だけど、真っ赤なダウンジャケットの人が見えた。
台温泉に歩いていくといっていたお客さんだ。
道がわからないのか何なのか知らないけど、
まだここにいるってことは、乗せていってあげたほうがいいな。
「本来は、そっちに行くバスじゃないよ」
次から気をつけな、雪道キビシイよ、
と教えてくれたのかもしれない。
たしかに、道中思っていたよりけっこうな雪道ではあった。
それでも歩けなくはないけど、
スマホが手に戻ったことと、
わたし一人のために、
余計な仕事をしてくれている親切さに大感激。
新花巻駅で買ったおつまみチーズの小さな箱を開けて、
お札を折りたたんで忍び込ませた。
バスを降りるときに、感謝をこめて手渡すと、
「おおおおお!」
小さなチーズでは有り余るほどに、分不相応に喜んでもらえた。
いい人だったなあ。
再び大感激。