赤いフレームのかっこいい自転車を買いました
自転車を買った。
赤いフレームの、街乗り用のチャリンコ。
これで、クルマを運転しないわたしの、
釜石での行動範囲がぐんと広がる。
釜石のとなり町の大槌町の「チャリカフェ」で買った。
納車は1週間後。
コロナで自転車ニーズが高まり、戦争で資源高になり、自転車の価格高騰と品薄状態が続いているそうだ。
チャリカフェのオーナーのだいちゃん(内金崎大祐さん)とは、
2011年の震災あとに知り合った。
そのとき住んでた東京の池尻大橋の、
屯(たむろ)っていう伝説の居酒屋店主いのちゃん(猪本康敬さん)から、
「ボランティアで大槌町いくなら、だいちゃんに会ってよ」
っていわれて、会った。
会ったというより、偶然出会った。
2011年の夏、息子が通っている中学校のラグビー部の合宿を釜石でやった。
ラグビーだけではなく、なにかしらのボランティアと、
釜石で被災した教会での礼拝を守るために、
釜石までやってきて、合宿をした。
そのときの早朝ボランティアの場所が、大槌町だった。
ちょうどその場所で軽トラ市みたいなのをやっていて、
店舗がなくなったお店や農家が参加して、
いろんなものを売っていた。
そのなかで、素朴なケーキを何種類かを並べている「お店」があった。
カンバンに「内金崎自転車商会」と書いてあった。
自転車屋がケーキ売るのか、と思いつつ、
「内金崎……???」
なんとなく聞き覚えがある……。
赤いつなぎを着たまんまる顔のお兄ちゃんと、
お腹の大きいお姉さんが立っていた。
「もしかして、だいちゃん?」
聞いてみた。
「はい!!!!!」
と、元気よく返事が返ってきた。
確証もないのに「だいちゃん?」っていってしまうわたしもどうかしているが、
知らない人にちゃんづけで声かけられて、
なんの疑いもせずに元気よく返事をするなんて、どんな人なんだろう。
しかしいかにも「だいちゃん」とよぶにぴったりの風ぼうだった。
東京の居酒屋のいのちゃんから紹介された、
中学生を連れて釜石と大槌にやってきた、
村田信之と申します、と自己紹介した。
だいちゃんも自己紹介して、
となりに立ってる奥さんは加代子さんといい、
お腹には双子のあかちゃんがいて、
もう間もなく家族4人になるところだ、と。
大津波に襲われて、そのあとすぐに火事になって、
街は焼け尽くされ、売り物の自転車も商売道具もなにもかもなくなった。
でも幸いなことに、ふたりとも生き延びることができて、
加代子さんは料理上手で、
こうしてケーキを焼いて売って生活ができている、と。
だいちゃんもわたしも、お互いに元気でいましょうね、
といってその場で別れた。
ボランティアが終わって、釜石のグラウンドにいって、
練習が終わってお昼のお弁当タイムになった。
スタッフの方が、デザートですとケーキを持ってきてくれた。
しかもたくさんある。
ぜんぶ、だいちゃんちのケーキだった。
スタッフの方に聞いたら、
ボランティア会場から離れるときに、
お兄さんが走り寄ってきて、
「東京からこんなところまで中学生がやってきてくれて、
ラグビーやってボランティアやって、
こんなにうれしいことはないです」
といって、その日の売り物をぜんぶ持ってきてくれた。
お金を払いますといっても、そのお兄さんは受け取ってくれなかった、と。
だいちゃんケーキ売ってその日暮らししているのに、
そのケーキをぜんぶ選手たちに分けてくれた。
こんな人、この世に二人と存在するのだろうかと思って、
それ以来お付き合いをさせてもらっている。
あれから10年以上が経ち、
奥まった地域にある仮設の店舗から、
町のど真ん中のシャレたチャリカフェになった。
だけど、だいちゃんは相変わらずのだいちゃんだった。