見出し画像

【ヨロン島】おかあさん専用のシェアルームはなぜ必要なの?

【ゆんぬんちゅ<ヨロンの人>③ あんまぁ〜ず 内野正世さん】

子どもを産むために家族と離れる

地域あるある。
「自分たちの当たり前は、よそ者にはびっくり」

ヨロン島では、女性は出産1ヶ月前から家族と離ればなれになる。

「離島のお産ってそんなもんだと思っていたら、
島外の人たちからしたらショーゲキだったらしいです」

あんまぁ〜ずのマサヨさんは、そういって笑う。

あんまぁ〜ずは「NPO法人よろん出産子育て応援隊あんまぁ〜ず」という。
あんまぁ、は「おかあさん」。
あんまぁ〜ずは、おかあさんたちの出産と子育てを応援する。

なぜ応援するのか、という疑問はたぶん、
わたしを含めてニッポンのオトナたちが抱いていることだろうけど、
ここではちょっと置いておく。

マサヨさんは、自分の体験から、この応援隊の活動を始めた。
「沖縄の病院の宿泊施設にひとりでいたんですけど、
さびしくって、毎日泣いていました」

ヨロン島には産婦人科がない。
なので、出産どころか検診すらも、
船や飛行機に乗って沖縄か鹿児島へいく。

ところが、船も飛行機も、
出産予定日まで30日を切ったら乗れないことになっている。
だから、それ以前に島を出ないといけない。

「その精神的な負担を減らしたくて」
と。

沖縄にシェアルームをつくる

2016年に活動を始めて、
2017年に沖縄にヨロン島のお母さん専用のシェアルームをつくろうと、
クラウドファンディングを立ち上げた。
目標額、50万円(ええええ!)。
翌日、目標額は達成した(ええええ!)。
最終的には147名215万円、当初目標の4倍を超えた(ええええ!)。

家具と家電、ちゃんと料理ができるキッチン、
もちろんバスルームも、ベランダもついている。
近くにコンビニがある。
お母さん専用といっても、家族も泊まれるように布団を用意してある。

それまでは、マンスリーマンションだったり、ホテルを利用していた。
だけど、マンションでは急に必要になったときに手続きが間に合わないし、
ホテルでは滞在中の食事が外食かコンビニ食になる。

なにより、ひとりっきりで出産にチャレンジしないといけない。

あんまぁ〜ずのシェアルームには、
同じマンションに大家さんも住んでいる。
「わたしのときは誰もいなくて。
それでたまたま病院に来てたヨロンの人に会ったら、
ほっとしたしうれしかった。
ふだんはしゃべったこともなかったおばさんなのに、
『あんた〜、こんなとこにいたの〜?』
って親しくしてきた近所の人みたいに声かけられて、
こっちもずっと知り合いだったみたいに(笑)」

子育てをお祝いしたり応援したりするのはなぜ?

あんまぁ〜ずでは沖縄にあるシェアルームのほか、
ヨロン島の地元では、
中学校と高校の制服や子ども服をリユースする「attara(あったら)」、
ベビーカーやチャイルドシートなどが必要な人と要らなくなった人をマッチングする「M+attara(待ったら)」、
出産お祝いプロジェクトでは、45を越える協賛企業や店舗からのお祝いの品をわたし、
ママたちの息抜きリフレッシュのイベントなどを不定期に催している。

こんなのあったらいいな~、というサービスが充実しているあんまぁ〜ずは、
2020年に任意団体をNPO法人化して、
2021年、内閣総理大臣賞を受賞している。

人口5000人の島の、始まったばかりのNPO活動。
見てる人はちゃんと見てる。
与論町も大島郡も鹿児島県も九州も西日本も飛び越えて、
内閣総理大臣賞。

でもまだまだ利用者は多くはない。
知名度が低い?
「そんなことないです、ヨロンだから(笑)」
うわさ話はまたたく間に広がっていく。
「あるのは知ってるけど〜、っていう人もいるし、
必要な人にピンポイントで届いてないことはあります」

地元エリアの新聞、沖縄の新聞、全国紙に何度も掲載され、
NHKの「あさイチ」で全国にも放送された。
しかし、町の広報誌には端っこにちょこっとだけ。

町を上げて大喜びして、町のPRに使ってもいいところなのに。
「なんででしょうかね」、と何人もの人が、
町のオトナたちの無関心さに不思議がった。

無関心であってもこのニッポンでは不思議ではない。
少子化問題は、1970年代にすでに指摘されていて、
1990年代に「少子化」を再定義して少子化対策をしてきた。
2005年には初めて出生数が死亡数を下回り、
総人口が減少する人口減少社会になっている。

子ども庁という、何をするのかわかりやすい役所をつくるはずが、
「子ども家庭庁」という名前に変えられた。

出産も育児もオンナがすることであり、
子どもを産んだり育てたりすることは家庭がやることであって、
個人個人ががんばればいいことだ。
いや、個人個人ががんばらなければいけないことであって、
オトナたちはもっとほかにやるべきことがあるんだ、
ってか。

なんだかんだ、まだまだ自己責任と性的役割分担の世の中でございます。
だから、おかあさんたちを応援する人たちがいなければならないのです。
あんまぁ〜ずの活動は、ホントなら社会全体でやるべきことではないでしょうか。

そこらあたりの意識を変えるには、行動を変えないといけない。
だから、あんまぁ〜ずはとっても大事な活動をしている。
わたしはそう思う。

thanks to NPO法人よろん出産子育て応援隊あんまぁ〜ず 内野正世さん