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かわいい水着を選んでがっかりしてしまったけど

トランスジェンダーの「おとうさん」と女性のおかあさんとゲイの「おとうさん」。
この3人で親になっていくエッセイ。

まず、トランスジェンダーの杉山文野さんと彼女のカップル。
文野(ふみの)さんは戸籍上は「女性」だから、
法的な結婚はできない、まだ。
ふたりとも子どもが欲しいけど、医学上はふたりとも女性だからムリ。
そこで、ゲイの友だちのゴンちゃんに精子の提供をしてもらう。
めでたく妊娠し、子どもが生まれる。

すると、彼女とゴンちゃんは夫婦じゃないから、
ゴンちゃんは生まれた子を認知して、ゴンちゃんは「実父」。
彼女は「実母」。
で、ゴンちゃんと文野さんとで養子縁組をして、
文野さんは「養母」。
実母と養母がママとパパで、実父は……。

「家族ってなんだろう」
夫婦別姓を受け入れないトンチンカンな政府とか裁判所とか、
自分の離婚とかなんとかでいろいろ考えるチャンスはあるけど、
『3人で親になってみた』(杉山文野 毎日新聞出版 2021)
は、ところどころエピソードで笑いながら、ホントに気づきが多かった。

なにしろ、この本人たちにも、ロールモデルがなかった。
当事者たちも、気づきながら、学びながら、育っていってる。

たとえば、こどもがスイミングスクールに通うことになり、
親子で量販店に水着を買いに行った。
たくさんある中から娘が選んだのは、
かわいいイチゴがたくさん描かれたフリフリの水着だった。
パパの文野さんは、ちょっとがっかりする。
「やっぱり女の子ってこういうのが好きなんだなあ……」

次の瞬間、文野さんははっと気がつく。
「『女の子だから』かわいいのが好きなんだと決めつけている自分」
トランスジェンダーの自分さえ、
男の子なんだからこれこれ、女の子だからあれあれ、
というバイアスがかかっている。

「実父」であるゴンちゃんと、「夫婦」である自分たちとの関係。
3人が親なんだから、とアタマではわかっていても、
どこか割り切れない、よそよそしさもぬぐえない、
解決するときに、「父親」「母親」「家族」の従来の枠組みから考えてしまう、
ということに、気がつく。

「家族ってなんだろう」
文野さんがわかったのは、
「家族とは誰かに用意してもらったり、あらかじめそこにあるものではなく、自分たちでひとつひとつ築いていくものだ」
ということ。

字面を追うと平凡だが、このエッセイではすごくリアリティがある定義だ。