クルマから降りて駆けてきた男の子
ドライバーがハザードランプを点滅させた。
クルマを少しゆっくり走らせていたので、
後続のクルマに先に行ってもらうよう、
お願いのメッセージだった。
でもなかなか追い越してくれないので停車させたら、
うしろのクルマも停車した。
助手席から、3歳ぐらいの男の子が降りて走ってきた。
選挙カーを走らせていると、下校途中の小学生なんかはよく手を振ってくれる。
最初は応援してくれているのかと思っていたら、
どうやらそうでもないらしい。
騒がしくて動いているものに興味を示しているだけだろう。
荷台を広告パネルにして走っているトラックと同じだ。
でも、その子はちょっと違った。
おとなしそうな男の子。
Tシャツに半ズボン。
まだ細くて柔らかい髪の毛。
わたしをじっと見ている。
わたしはクルマから降りて、
「ありがとう」
握手をした。
この子のお父さんも運転席から出てきて、
「ファンなんだそうです」
という。
「あ〜、ごめんね。蓮舫さんはもう帰っちゃったんだよ」
昨日、元パートナーの蓮舫さんが応援に来てくれたし、
録音で彼女からのメッセージを流していたから、
きっとまだ蓮舫さんがクルマに乗ってるんだと勘違いしたんだろう。
「違うんですよ、むらたさんのファンなんですよ」
「えええええええ!」
びっくり。
「そうなの?」
こっくりうなずく。
「中田薬局さんで会って、握手したもらったそうで、
そのときにむらたさんのファンになったらしいです。
だから、『こんどむらたさんがとおったらおいかけて』
っていうんです」
たしかにその地域は、しつこく選挙カーを回していた。
地元にしている議員がいなくて、
いろんな候補者が浮遊する票を狙っている地域。
(ああ、あのときの子か)
と思い出した。
ファンなんてはじめてのことで、
わたしもちょっと戸惑っている。
「ありがとう、お名前なんていうの?」
と名前を聞いたら
「りゅうせい」(仮名)
と小さな声で。
「りゅうせい君、ありがとう。
りゅうせい君が10歳になって、20歳になって、
そのときに
『釜石っていい街だな』
って思えるように、
30歳になっても
『ここに住んでてよかった』
って思えるように、していくからね」
と、いったが、いい直した。
この子の両方の肩をきゅっと握って、
「『ここに住んでてよかった』
って思えるような釜石に、いっしょにつくっていこうね」
こっくりとうなずく、りゅうせい君。
「未来への責任」。
この子たちのために、いい街にしていかないと、
この子たちのために、地球環境を守らないと、
この子たちのために、ちゃんとは責任を果たさないといけない。
子どもたちに冷たい社会に未来はない。
心にずしっときた。