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そうだよあんたのことだよ

『あいにくあんたのためじゃない』
を読んでいる。
短編集で、どれもやたらとおもしろい。

とくに一番最初の「めんや 評論家おことわり」。

主人公はラーメン評論家。
過去のブログが炎上中で、しかも別の食べる系ブロガーが現れたために、仕事が激減。

彼の書きっぷりは味を評価する一方で、
その店の主人やスタッフ、お客さんを貶める。
偏見、差別、思い込みに満ち、
しかも本人に承諾なく写真も撮影して掲載する。
読む人はそれをおもしろがり、追跡していく。
むしろ、そうしたヘイト行為をこそ楽しんでいる、ラーメンよりも。

ある日、出禁になっていたラーメン屋の店主からお許しのメッセージがくる。
お店にお越しください、と。

そのお店のことも含め、過去の文章や写真掲載をお詫びするブログを書き続けていた、
その謝罪の気持を受け入れてもらった、
と本人は思っていた。
緊張してお店に入って席に座り、注文をして店主とひと言二言会話をし、
ようやくほかのお客さんのようすを見渡せる心の余裕ができたとき、
始まったのは……。

子育て、仕事、恋愛、人生をかけて闘っている人たちを、揶揄して笑う人たちがいる。
笑っている人たちはじゃあ、なにかに必死になっているのか。
なにかに必死になったことがあるのか。

そんな世の中だからこそ、しみるストーリーだった。


『あいにくあんたのためじゃない』 柚木麻子 新潮社 2024年