美術は人を救うためにある
経営する会社が倒産し、路上の絵描きになった。
路上は、東京、パリ、ロンドン、ニューヨーク。
現地でレアなデジタル機器を買って、
ネットで転売して生活資金を稼いでいた。
ちょっとは稼げるアーティストになったとき、
ガーナのスラム街「アグボグブロシー」を知る。
そこは世界最悪の電子機器の墓場。
行ってみると、電子のゴミを燃やし、
有職ガスを吸いながら、1日500円で生活するスラムの人々を知り、
大きな衝撃を受ける。
自分が転売して生活費を稼いでいた電子機器が、
こんなところに捨てて集められて、人々の命を蝕んでいる。
この不条理な現実をアートで変えることを決意する。
この不条理な現実をアート作品にして稼ぐこと、
稼いだおカネでここにいるみんなを幸せにし、
世界中を平和にすることを誓う。
誓ったからには実現しないといけない。
日本に帰ってきて、スラムの子どもたちを描いた作品を描き、
廃棄物でアートをつくり、
「美術は人を救うためにある、ガーナのスラム街を訪れて」展を開いたら、
作品が1点1500万円の値を付けて売れた。
大量に買ったガスマスクを抱えて、アグボグブロシーを再訪。
ガスマスクを配り、自分の生命は自分で守るように備え、
そのために学校をつくって生きるための知恵を教え、
リサイクル工場を建ててより良い生活を享受できるようにする。
アグボグブロシーはもともと、美しい湿地帯だった。
それが、世界中から電子のゴミで埋まる湖になった。
先進国の富の使いカスが。
わたしは絵を眺めながら、
「自分が使っていたものがここで見つかったりするのかな〜」
とか軽く考えて、はっと気がついた。
この絵の材料は、必ず誰かが使っていたものであり、
いまでも誰もが使っているものだ。
それを捨てたら、どこにいくんだろうか。
長坂真護 展 still A BLACK STAR 上野の森美術館