大切なことには時間がかかる
「春休み大隈塾」というのをやっていて、
室井滋さんの『会いたくて会いたくて』という絵本を使って、
対話型鑑賞をやってみた。
ストーリーは、
男の子がおばあちゃんに会いに行く。
だけど、おばあちゃんが暮らしてる施設は面会させてくれないし、
男の子のおかあさんも、おばあちゃんのところに行かせたくない。
そこで、男の子はこっそりと行って、
窓の下からおばあちゃんを呼ぶ。
気がついたおばあちゃんは「わたしは元気だよ」と
書いた紙を窓から落とす。
そして、ヒモがついた紙コップみたいなものも。
男の子は、紙コップからおばあちゃんの声が聞こえてきてびっくりする。
まるですぐそばにおばあちゃんがいるように、
おばあちゃんと話ができた。
その日の帰り道、原っぱを歩いてるとピカッと光るものがあった。
四つ葉のクローバーだった。
その原っぱは何回も通ったことがあるけど、
ピカッと光ったのは初めてだった。
四つ葉のクローバーを押し葉にして、
おばあちゃんにプレゼントするつもり。
という絵本。
糸でんわに驚く男の子に、おばあちゃんは
「昔はなんでも自分たちでつくったんだよ」
という。
「手紙やはがきを書いて、どきどきしながら返事を待ったもんだよ」
という。
「便利じゃなかったけど」
という。
「その待つ長い時間がいいのさ」
という。
室井滋さんも、インターネットには触らない。
だから、メールもSNSもしない。
スマホじゃなくガラケー。
参加した学生たちの感想は、
「会いたい人に会えない、っていうつらさは、
コロナで身を持って体験したからわかる」
「ネットですぐに済ませるのはたしかにそう」
「糸でんわの場面は、もう会えないことを示してるんじゃない?」
「つながらない時間を大切にする心の余裕みたいなのが欲しい」
「コロナで時が止まった。ゆっくり考える時間ができた」
絵本は2021年1月29日に出版されている。
新コロナでの現状を物語に盛り込んでいるはずだが、
鑑賞したときはその情報を学生たちに与えていなかった。
もう1回、やってみた。
学生たちの感想は予想通り、1回目とは違ったものになった。
中でも、北海道で学生兼農家のコメントがよかった。
「なんにもない時間、って農業にはあるんです。
種をまいて、芽が出てくるまではなにもない。
やれることも、水をやることぐらい。
なにもできない。
速く発芽させることはできないんです。
わたしたちにもどうにもならないことってあるし、
大切なことには時間がかかるんですよね」