神豬比賽! 台湾の「豚太らせ祭」で直面した圧倒的生命力/吉田悠軌・オカルト探偵
オカルト探偵・奇祭特別編の舞台は台湾へ! 「豚を太らせる」ことを競う神豬比賽に、生命賛歌を目の当たりにした!
(ムー2018年5月号掲載)
吉田悠軌(よしだゆうき)/怪談サークル「とうもろこしの会」会長、『怪処』編集長。心霊スポット探訪、怪談にまつわる著書、メディア出演多数。
台湾の「豚太らせ祭」
台湾の首都・台北に隣接する新北市、その三峡という町に「清水祖師廟」はある。17世紀、大陸からこの地に渡ってきた移民により創建された、聖人・清水祖師を祀る霊廟だ。伝統建築と現代民間芸術が入り交じった様式は壮麗にして厳か、「東方芸術の殿堂」と呼ばれ親しまれている。しかし毎年旧正月6日に行われる清水祖師の聖誕祭については、その規模とインパクトの大きさにもかかわらず、おそらく日本のどのガイドブックでも触れられていない。
読者諸氏は「神豬(シェンチュー)」なるものをご存じだろうか。2年かけて太らせた豚を、新年明けに集落の人々で食すという伝統儀式で、元々は家畜たる豚に感謝を捧げる祭りだった。それだけなら世界中にありがちな犠牲祭の一種だが、戦後以降から奇妙な方向へと変化していく。どれだけ豚を太らせたかを競うようになり、参加者たちが1トン近くまで育て上げた神豬たちによる重量コンテスト(神豬比賽[シェンチューピーサイ])を催すようになった。もっとも太った豚には名誉ある「特等」の称号が与えられるのだ。
さらに神豬たちは食肉として解体された後、驚くような加工を施される。骨・肉・内臓を抜かれた後、その皮は目一杯に伸ばされ、特製の台に張られていく。頭を下にして、半球状に膨れた巨大豚の前を、花や食べ物が彩る。そんな奇妙なオブジェが車に乗せられ、音楽隊や仮装行列、ダンサーとともに街をパレードしていくのだ。
一見では把握できないが、筆者の背後にあるのはめいっぱい引き延ばされた豚の皮。
この奇祭は三峡だけでなく、桃園市や新竹県でも行われている。私が情報を知ったのも、去年、アジアのマニアック情報に詳しい知人が新竹県の祭りに参加したからで、そちらでは豚ならぬ「神羊」もいたらしい。
神豬を育てるには金銭的余裕がなければ無理なので、飼育者はおおむね地元の名士や会社社長などになる。コンテストに優勝、または参加するだけでもたいへん名誉なことらしいので、地元での箔付けという面もあるのだろう。重量を稼ぐため、狭いところに閉じこめ運動不足にさせ、フォアグラのごとくむりやり餌を詰め込みつづけたりもする。中にはコンテスト直前に鉄や石を飲みこませる事例もあったようだ。このため、動物愛護団体からたびたび廃止を求める声があがっており、神豬中止の噂が毎年浮上するという……。
ならば早いうちに現物を見ておかねばなるまい。知人のタレコミから約1年、じりじりと待ち焦がれた旧正月を迎え、ようやく台湾へ飛んだという次第だ。
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