令和にも生きている「世直しと夜明け」の呪法!日本を動かしてきた「呪術」の謎/本田不二雄
何がどうなっているのか、いったいこの世はどうなってしまうのか……。
この2年間、いやこの10年ほどの間にわれわれが直面した出来事は、現代人が時代遅れのものとして忘れていたあるキーワードを浮上させた。
それが「呪術」である。
実は、日本の歴史を振り返ってみると、ときに国の存亡の危機を救い、ときに時代の流れに劇的な変化をもたらし、ときに歴史的なリセットを行うたびにきわめつけの「呪術」が行われてきたことに思い至る。
こんな今こそ、見えざる世界にアクセスし、複雑にからまった因果の暗闇に光をもたらす「夜明けの呪法」が発動するタイミングなのである。
文=本田 不二雄(神仏探偵)
イラストレーション=久保田晃司
*三上編集長による解説動画*
プロローグ この国の精神的な危機を救い、時代の流れを変えた「呪術」
見えざる敵にアクセスし戦うための術法
この10年来、われわれは「目に見ないもの」との戦いを強いられてきた。それは3・11後の放射性物質であり、この2年ものあいだ世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスである。ある意味、長期的な大問題である気候変動・温暖化対策も、気象という目に見えない大きなものとの戦いである。
目に見えないとは、いわば暗闇の中にいるということだ。
この間、人類は科学によってその「見える化」を進めてきたのだが、まだまだ暗闇が晴れる気配はない。
たった今、コロナ感染の再拡大の予感がただようなか、無気味な小康状態を保ったまま年末を迎えようとしている(令和3年11月現在)。
昨年ささやかれた「ファクターX(日本の重症化率が低い要因)」もそうだが、感染爆発のあとの急激な感染減少もいまだ確たる理由は説明されていない。
要するに何もわからないのだ。
何がどうなっているのかわからないまま、恐るべき現象だけが次々起こる──これほど恐怖を覚えるものはないだろう。その恐怖は、自身の存在をも脅かす根源的な不安を呼び覚ますものだ。
その不安から逃れるために人間ができることは何か。
大昔からのセオリーでいえば、出来事が何によって生じ、どんな意味があるのかを説明する物語(神話や由緒縁起)に沿って、神仏に祈ることだった。
しかし、ただ思っているだけでは物事は動かない。見えない敵にアクセスし、その相手に打撃を加え、あるいは攻撃する意図を挫くじくための具体的な術法が編み出され、実行されてきた。
それが「呪術」である。
ときに国の存亡の危機を救った「呪法」
科学万能の近代社会は、呪術を遅れの迷信だと断じ、排斥しつづけた。しかし、いったん社会が暗闇に覆われるとどうなるか。ここ2年の例でいえば、忘れられていたアマビエを召喚し、社寺の隅にしまわれていた疫病退散の御札が復刻され、蘇民将来の護符がふたたび大人気を博している。
そして『呪術廻戦』のヒットである。
──呪いに対抗できるのは同じ呪いだけここは呪いを祓うために呪いを学ぶ都立呪術高等専門学校だ(『呪術廻戦』0巻』より)
呪術とは何か。「超自然的な存在に訴えることによって、望ましいことの実現を目指した行為」(人類学者・吉田禎吾)のことをいう。
この観点でいえば、呪いの術や呪詛返しといった「まじない」のみならず、神々への祭祀や寺院での祈禱も、広い意味では呪術に含まれる。もっといえば、「呪い」と「祈り」はコインの裏表である。
「呪術」は私的な願望成就のための術法としてのみ行われてきたのではない。
古代においては、人の怨念に由来する呪い(呪詛)が横行し、国家をも揺るがす事態が発生した。あるいは中世、数万もの外国の軍船がわが国をめがけてやってくる未曽有の国難が発生した。そして戦国時代、国中が戦乱に巻き込まれる修羅の世が現出した。
とりわけ怨みを抱いて亡くなった者の怨霊は、1000年以上にわたってこの国を〝呪縛〟しつづけてきた。
その一方で、国のため、公のため、ときに国の存亡の危機を救い、時代の流れに変化をもたらし、大きなリセットを実現させるための「呪術」が行われてきた。
今回は、そんな「呪術の日本史」をたどり、令和の危機を救う「夜明けの呪法」に迫ってみたいと考えている。
第1章 ◆古代〜中世◆怨霊を鎮め、国難から国を護った秘仏本尊
奈良・平城京の裏側で横行した呪詛
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