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死者からのワンコール/あなたの怪奇ミステリー体験

それまで晴れわたっていた空模様が、なぜか突然、怪しげに。
そのときである。峠道のトンネルから自転車に乗った少年が現れたのは。
その後、少年に続いて車を走らせるも、彼の姿はもうどこにも……。

イラストレーション=不二本蒼生

トンネルの少年

木樹/福岡県北九州市

今から10年くらい前のことになります。
そのころ仲のよかった友人3人と、大分県にある城島(きじま)高原までドライブしにいった帰りのことでした。メンバーは、私以外に男友だちふたりと女友だちがひとりです。
別府湾が見わたせる道路から脇道に入り、そこをずっと登っていくと峠の頂上に着きました。
ちょうど道路脇に飲料の自動販売機が置いてあったので、そこでちょっと一休みしようか、ということになりました。
私たちは車から降りて、自動販売機で買った缶コーヒーなどを飲みながら、それぞれが疲れた手足を伸ばしていました。すると、なぜかそれまで晴れていた空が急に曇りだし、気温も下がり、パラパラとみぞれまでが降ってきたのです。

そんなときでした。私の傍にいた男友だちのひとりが道路の先に小さなトンネルがあるのを見つけて、何を思ったのかその狭い真っ暗な穴の奥に向かってピューッと口笛を吹きました。
すると次の瞬間です。
何とその小さなトンネルの中から自転車に乗った高校生くらいかと思われる少年がいきなり飛びだしてきました。そして私たちの目の前を一気に通りすぎていったのです! !
そのとき私は、その少年が冷たいみぞれの降る中、半袖姿で、どんよりと暗く曇った空を何やらまぶしそうにチラッと見上げたのをハッキリと見ました。しかも、少年のまわりだけがなぜかまるで真夏の真っ昼間のように白く輝いていたことも。
そして少年は、私たちの存在にはまったく気づいていないかのように前を見つめたまま、力強くペダルを踏みこんで下り坂を降りていったのです。
私たちはみな、そんな突然の思いもよらない出来事にしばらく啞然として、自転車に乗った少年の後ろ姿を見送っていました。やがてひとりが寒さを訴えたので、全員で車に戻り、その場から出発しました。私たちが向かったのは、さっきのおかしな少年が自転車で向かったのと同じ方向でした。

ところが、なぜかどんなに坂を下っていっても、さっきの少年に追いつけないのです。こちらは車で向こうは自転車だというのに。
その道は一本道です。いくら下り坂とはいえ、自転車でそんなに速いスピードで走っていけるとはとても思えません。

「あの少年は、競輪選手にでもなるつもりなのかねえ。えらい速いじゃないか」

ハンドルを握っていた男友だちが半ば呆きれたように、のんびりといいました。
思わず私が、「あの子……もしかしてこの世の人じゃなかったのかも」と、いうと、すぐに女友だちが、「私もそう思う。だって私にはあの少年の全身がオレンジ色に光って見えたもの」と、返します。
べつの男友だちも、「確かにあいつ何か変だった。でも、俺には青っぽく光っているように見えたよ」

その一瞬、車内にスーッと冷気が満ちたような気がしました。
あの暗くて狭い小さなトンネルの奥から、いきなり自転車で私たちの前に飛びだし、そして消えてしまった少年とはいったい……!?

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のっぺらぼうの托鉢僧

大分県 黄田マイ(26歳)

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