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私と卵と、これから。それから。 第十話
Day6
学生時代の友人で、排卵しているのが自分でわかる子がいた。
「あ、今月は右側から排卵してる。」
っていう具合に、わかると言ってた。もともと生理不順で自分の周期も明確に把握していなかった私からすると、彼女が言ってたことは意味不明だったし、あり得ないでしょって笑い飛ばした記憶がある。
でも、ごめん。
今ならわかるわ、言ってたこと。
なんとなくだけど、少しだけ張ってきた下腹部。おへそを挟んで左右5、6センチ斜め下あたり。連日の注射のせいか少し疼く感覚。右に注射をした時は右に、左に注射した時は左に。
全体的な身体のダル重さが緩くも確実に増していく中で左右に時折どくどく、ちくちくとした疼くような感覚がして、「あぁ、きっと今卵巣が頑張って卵を送り出す準備をしてるんだな」と思うようになった。
初めの数日は生理痛の方が強くてわからなかったけど、生理もほぼ終わった今、神経がその経験したことのない不思議な感覚、ゆるい痛みを拾えるようになったようだった。
これを一度経験したら、次の生理周期の時にもしかしたら友達のように排卵時期やその感覚がわかるようになるかもしれない。なんて、思いながら、今日も注射後の怠さにやられて午前中は休み休み過ごした。
今日が日曜日でよかった。
Day7
昨日とは打って変わって今日はそれほど気持ち悪くない。
もちろん完全にスッキリということはないし、軽い頭痛と胸焼け感はあるけれど昨日、一昨日の怠さと気持ち悪さに比べたらなんてことない。
とはいえ、気になることがないわけではない。
下腹部の張りと違和感は増した。目に見えて腫れているということではないけれど、軽くストレッチをする時、今までにない硬さをお腹周りに感じる。
ホルモン剤の影響力に驚きつつ、それに素直に反応する自分の身体を少し愛しく感じた。
Day8
卵子の成長具合を確認するため一週間くらいぶりにクリニックへきた。
血液検査と診察で採卵日を決めるのだ。
今日のクリニックはカップルがとても多い。当たり前だけどパートナーの精子がなければ子供はできないわけで、不妊治療専門のクリニックなのでカップルがいて当然だ。
むしろ私の様にパートナーがいなくて将来の為に卵子凍結だけをする人のほうが、まだ圧倒的に少ないはずだ。
パートナーがいて妊娠を望んでいる場合は採卵日当日に精子と受精させるんだとか。凍結保存した卵子と後日受精させるケースももちろんあるが、すぐに次の工程に進めるよう全てが揃っている。
パートナーの男性が射精する部屋もあるし、理路整然としている。
ちなみに、私が採血していた処置室に旦那さまの精子を持ってきた方がいて、なんだか不思議な感じだった。「射精から何時間ですか」って聞きながらプロテインシェイカーみたいな容器を看護師さんが受け取ってた。
俯瞰してみるとクリニックは病院というより、まるで大きな実験室のような空間といえるかもしれない。
血液検査と診察の結果、卵子は順調に成長してきているらしく
私の採卵は4日後に決まった。
Day9
自分で注射する最後の日。
クリニックの指示で少しタイミングを変更した昨日と同じ時間帯に実施するように言われていたのでお昼に注射をする予定だ。
でも今日はなぜか朝からずっと気持ちが悪い。カフェオレ一杯と切ってあった梨を一欠片食べるのが精一杯。他は何も喉を通らなそうだった。
朝一の会議を済ませてから、そのまま仕事をしていたが、また二日酔いのような症状に見舞われて横にならざるを得なかった。朝を除いて重要な会議がなくてよかったけど、身体を休めるたびに仕事が溜まっていくのでちょっとした罪悪感と焦りを感じた。
しかし気持ち悪さはどうにもならなくて、しばらくベッドとお友達。
お昼。
気持ち悪さは抜けないけど、何か食べないとと思って冷蔵庫を開けるも、食べたいものがない。むしろ、食べることを想像しただけで胸焼けがする。
いや、つわりってこんな感じ?
経験したことないけど、きっとつわりってこんな感じなんじゃないかと勝手に納得してしまった。
悩んでる時間も勿体無いので一先ず最後の注射を打つことにした。流石に手慣れたものでスムーズに完了。が、5分もしないうちに、また気持ち悪さが襲ってきた。また横になろうかと思ったけど、少しひんやりしたキッチンが心地よくて、壁に寄りかかって体育座りをして気持ち悪さをやり過ごした。
午後の仕事もあるし少し何か食べなきゃと思うけど、やっぱり何も食べたくなくて。四分の一に切った食パンとりんごを一欠片。
果物は比較的食べられるようだ。
さて、部屋に戻って仕事をしなければと思った時、唐突にレモネードが飲みたくなった。レモネードじゃなくても蜂蜜レモン的なものでもよかった。
とにかくレモン。
いや、これ本当につわりっぽくない?
って一人ツッコミしながら、最近良く作っていた蜂蜜と棗を入れた生姜レモン茶を作った。