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私と卵と、これから。それから。 第十一話
Day10
じわじわ迫ってきた採卵日。
今日から飲む薬が変わり、タイミングも細かく決まっているので、ちょっとした緊張感を感じながら間違えないように何度も説明資料を読み返す。
幸いにも昨日の気持ち悪さは軽減していて久々にお腹が空いた感じさえした。一方で生理前日のようなお腹のはりと鈍痛が出てきた。
今日の夜から点鼻薬を吸引して育った卵が排卵してしまわないように抑える。これまで一週間ちょっと無理矢理育てた卵たちを今度はこれ以上成長しないように、排卵してしまわないように抑えるのだ。聞けば聞くほど自然に逆らいまくっていて複雑な気持ちになる。どうりで身体もしんどいわけだ。
そんな自然に抗ってまでやると決めたのは自分だし、やり通すけれど。
やはりさまざまな感情がわいては消え、思考がうるさい。
きっと、数年後に体外受精を試みる時、もしくは子供を持たない選択をした時まで、心の奥底でこのモヤモヤした感情は燻り続けるのだろう。
我ながら面倒な性格だと思う。
夕食後の薬も飲んで残すは時間指定のある点鼻薬をするのみ。
久々に気持ち悪さがあまりなくご飯も食べれて仕事も捗った。少し気分がいい。それも束の間、ここにきてお腹の違和感が増してきた。はりと鈍痛が少し、けれど確実に増した。左右の卵巣の位置がはっきりわかるくらいにそこから違和感というか痛みがじわじわ広がってきている。気持ち悪くてぼーっとしていた昨日とは違って、頭は比較的スッキリしているから余計にちょっとした痛みや違和感に敏感になっているのかもしれない。
痛みついでにもう一つ。
胸もはってきていて腕がちょっと触れた時、少し痛い。生理前に胸がけっこうはってしまうタイプなので、あまり驚かなかったけれど。
身体はホルモン剤の影響で着々と妊娠する準備をしているのだ。
一生懸命変化に対応しようとしている自分の身体を日頃からもっと労わるべきなのではと思った。
Day11
今日は朝と夜の薬1錠ずつだけなので、気持ち的に楽だった。
身体的にはまあまあ。話で聞いていたほどむくみとかはなく、2日前まで苦しめられていた気持ち悪さはそれほどない。全体的に少し怠いかな?と思うくらいで、お腹と胸のゆるい鈍痛を除けば平気だった。慣れもあるかもしれないけれど、投薬を始めてから一番「普通」の状態に近い気がする。
そして、明日はいよいよ採卵日。
そのことを考えると落ち着かなくて、寝る前に何度も何度も持ち物リストを確認してしまった。ここまで頑張ったんだから、あとは先生を信じて任せるのみ。スムーズに行きますように。
祈るようにして眠りについた。
Day12
採卵日当日。やや緊張しつつクリニックに向かった。
クリニックについたとたん、やはり実験室のように全てが流れ作業のように進んでいく。
手術着に着替えて点滴を打ってからカーテンで仕切られた空間に置かれたベッドで静かに順番を待つ。手術室は目と鼻の先にあるので、カーテン越しに自分の前の人が呼ばれたりしているのが分かってより一層緊張感が高まったのを覚えている。
ソワソワしているうちに、あっという間に自分の番が回ってきて緊張はピークに。点滴袋を下げたポールを支えにしながら手術室に歩いていき、中に入ると想像以上に多くのスタッフがいて驚いた。
担当の先生以外にも採取した卵子を確認した上で凍結保存してくれる培養士の方、その他看護師の方々など6名くらいに囲まれて婦人科検診でお馴染みの椅子のような形状の処置台に座らされた。
よろしくお願いします、と挨拶をしたのも束の間。
始めますね〜の合図とともに口元を酸素マスクのようなもので覆われ、深呼吸を促されて・・・
目が覚めたら終わっていた。
クリニックのベッドで深い眠りから覚めた時、しばらく何が起きているのかわからなかった。鎮痛剤も効いていたおかげで痛みもないし、まだ深い微睡みの中にいるような感覚で再び意識を手放したのを覚えている。
2回目に目を開けた時、ちょうど看護師の方が様子を見にきていてくれて、もう終わったのか尋ねた。それと同時に下腹部に少し鈍痛を感じた。痛みはエネルギーを奪うので、痩せ我慢はせず座薬を入れてもらい再び目をとじた。