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私と卵と、これから。それから。 第八話

生理2日目は身体のダル重さがピークだったりする。
私の場合、生理痛がけっこうあるので痛みで夜中起きるなんてこともしょっちゅうある。寝る前の痛み止めを飲むタイミングで翌日のパフォーマンスが左右される程に、生理痛のダメージは大きい。この日も5時くらいに痛みで目覚め、首も凝っているし、朝から少し、いやだいぶブルー。
それにクリニックに行ったところで、血液検査の結果次第では今回の周期で採卵ができないかもしれない。
せっかくスケジュール調整したのに、できないことがある。
気分はますますブルーである。

少しもやもやしつつも午前中に可能な限りの仕事をこなし、午後クリニックへ向かった。
まず採血をして、結果が出るまで30分。仕事のメールを確認しつつ、この文章を書く私の前にはパソコンを開いて仕事をしている女性。平日の昼下がり、仕事を休めずに、それでもクリニックにきている人は少なくない。彼女がなんの治療のためにクリニックにきているかわからなかったが、真剣な眼差しでパソコンに向かい頑張っている姿はかっこいいと思った。同じ女性として、仕事をしながら自分の身体と向き合っている彼女に勝手に共感し、私も頑張ろうと勇気をもらった気がした。

ちなみにパートナー同伴の人もちらほら。不妊治療専門のクリニックではあるので、何も不思議なことではないが、ふと思い出したことがある。
それは遡ること数ヶ月。
会社で開催された卵子凍結セミナーの最後に設けられた質疑応答の中で、参加していた女性社員がこう語っていたのだ。

「35歳で年齢的には早く子供をと思っているが、パートナーがまだ急がなくていいと言っている。なかなか理解を得られず、そのため後からでも遅くないように卵子凍結を考えている」と。

正直、彼女の悩ましい現状を思い、そのパートナーさんに対していろいろと言いたいことはあったし、心の中でちょっと暴言を吐いたかもしれない。
もっと女性の体のことを考えて、根拠なく「急がなくていい」なんて言わないでほしい、と。
でも、そんな彼女に対するセミナー講師の答えがまた悲しいものだった。

「そうなんですよね。男性側の理解もまだまだなので、不妊治療に踏み切るのに時間がかかってしまうケースが多いんです。後で後悔しない為にも、心配だったら卵子凍結も一つの選択肢だと思います。」

冷静になって考えると、私自身ちゃんと卵子凍結について調べるまで、アラフォーになるまでしっかり考えてこなかった。そんな私が人のことをとやかく言えたもんじゃない。それが男性だったら、いくらパートナーとはいえ女性の身体のことについて、年齢に伴う変化について、理解しておくべきだという方が難しいのかもしれない。
でも知らなかったから手遅れになった、なんて、そんな悲しいことはない。

さらに、このクリニックに初めて相談にきた時に先生が教えてくれたことも忘れられない。

「いい状態で卵子を凍結できたとしても、受精させる時に精子の状態が良くなくてなかなか健康的な受精卵が育たないケースも多いんですよね。男性はいつまでも生殖能力が高いと思われがちですが、実は女性同様に質は年齢とともに落ちるんです。だから、あなたが今後パートナーを探す時はなるべく若い人を選んだ方がいいですよ」

最後は冗談まじりに言っていたが、先生の口調は切実だった。
頑張って卵子を良い状態で保存しておいたのに精子の状態でだめになってしまう事もあるだなんて。
きっと多くの男性はそんなことを考えたこともないのではないだろうか。やはり知らないことが多すぎる。もっと男女、年齢問わず卵子凍結や生殖機能についての最新の情報を周知していく必要があると思った。それを知った上でちゃんとパートナーと話し合う環境が整うのかもしれない。
パートナーの理解が得られないと吐露していた彼女に是非知って欲しかった。女性だけの問題じゃないんだよ、自分だけで抱え込まないで、って。

そんなことを考えているうちに時間は過ぎて、血液検査の結果がでた。

身体の状態は良好で、卵子採取に向けて投薬を始めることが決まった。
看護師さんに渡された山のような薬の量に驚きながらも、その使い方や飲むタイミングなどについて細かく説明をうけた。その後、別室に移動して腕に最初の注射をしてもらって初日の診察は無事終了。
今回の生理周期で卵子凍結できることの喜びは大きかったが、大量に持ち帰る薬の中にあるペン型注射器のことを考えて不安になった。
明日からは自分で注射を打つのだ。正直怖い。
でも、ここまできたらやるっきゃない。

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