見出し画像

合唱部の先生と仲間との再会

小学校4年生からの三年間、私は学校の合唱部に所属していました。
この写真は、私が6年生の時。
三年の間、朝練とクラスが終わったあとの練習を真面目に頑張っていました。
今から考えると、なぜそんなに打ち込んでいたのだろうと思うけど、ただ本当に楽しかったからだけなんだと思う。
実際、毎日合唱の練習に行くのが楽しみだった。
友達も、合唱の仲間が多かったし、練習の時は真面目に頑張るけど、あとはふざけてくだらないことをひたすら話して笑い合った。
歌を歌うと、気分が良くなって、だんだんとハイテンションになっていく。
ちょっとしたことでも面白くなって、お腹が痛くなるほど笑った。

そんな中でも、まなみ先生の存在は大きかった。
宮城から千葉にやってきた先生は、いつも笑っていて、話し始めると止まらず、なまりながら面白い話をしてくれた。

はじめてこの学校に来て先生は、みんなが歌が上手いと感じたという。
そこで、これまでなかった合唱部を作って、NHKのコンクールに出るという夢を願ってくれた。その一期生が私たちだった。

三年間の間、先生が選ぶ曲にいつもワクワクした。子供ながらにもただ綺麗に歌うのではないんだとわかるような難しい曲を用意するのだ。
その曲と先生の教え方には創造性があって、その世界を表現する楽しさに震えた。

そして、私たちはNHK合唱コンクールの初挑戦である1年目で千葉県の県大会まで進むことになる。

初めてのホールの会場は、想像以上に広く、天井が信じられないほど高かった。ライトも強く当たって、別世界のように感じた。
こんな広い会場では一度も練習をしたことがなかったのだ。
いつもみんなの声を感じられる距離で歌っていたのに、広いステージではみんなの距離も遠くなった。自分の声ばかりが気になって、焦る自分がいた。

そして、本番。

私は、先生の指揮に集中しようと頑張ったが、はじめから足の震えが止まらなくなってしまった。
本番でこんなことになるのは初めてだったが、どうしても止まらない。
そして、途中で私は入るところを間違えてしまい、そこからみんながガタガタと崩れていくような感覚をもった。
その時の先生の必死な顔が、瞼に焼き付いている。

1年目は、そこで賞を逃して終了。

「私が、間違えたからだ」
私は心の中で思っていたが、口には出さなかった。
みんなも私を責めるようなことはなかったが、それでも悔しい思いを抱えて、静かに帰っていった。

その後の2年は県大会の銅賞を取ったと思うが、私は1年目のこの記憶が一番強く残っていて、その時のことをずっと申し訳なく思う気持ちが残っていた。

そんな合唱の日々から30年以上経った。
そしてなんと30年以上ぶりに、まなみ先生と会える機会を友人が作ってくれた。
友人は、小学校の時の同級生でたまに星男に遊びに来てくれていて、そこに合唱部だった友達も一緒に来てくれた。
みんなとは、Facebookで繋がっていたけれど、先生に会うのは本当に久しぶりで緊張していた。
会った瞬間、先生はあの頃と変わらず笑いながら話し続けた。
その感じを頭の中で過去と照らし合わせた。
そして、先生のこの明るさが大好きだったなぁと思い出した。
合唱をやっていた仲間とも話しているうちに当時の感覚がどんどん蘇ってくる。
歌って、笑って、悔しい思いや、喜びをみんなで分かち合った。
あれから、あんな風に一つのことを何年もみんなで頑張るということはなかった。本当に楽しかったのだ。

色々な思いをめぐらせながら、先生にあの初めに挑戦したコンクールで、自分がミスしてみんなが崩れていったように思ったことを伝えた。
先生は、自分も含めみんながそれぞれ緊張していて、それぞれにいつもの自分たちらしいことができなかっただけだったよと言ってくれた。

「だって、あんなでかいホールで歌ったの初めてだったんだから。出れただけでもすごいことだったよ」

私は、これまでの罪悪感から解放されたような気持ちになった。

本番で急に足が震えたり、頑張っていたことが報われなかったり、それでもみんなで練習をし続けたり、そんな体験は今までしたことがなかった。
結果だけじゃなく、その過程は今思えば本当に楽しくて、貴重な体験だった。それも、真剣に向き合えたから感じられた思いだった。
そこには根底にみんなで歌を歌うことの楽しさがあった。

子供達が真剣に向き合えるように、楽しむことを大事にしながら先生は教えてくれていた。
私たちが、卒業してからも先生は合唱を教え続けそのあり方はたくさんの子供達にみんなで歌をうたう楽しさやチャレンジする楽しさを教えてくれただろう。

そんな先生も、今年で教員として引退を迎えられたという。
これまで本当にお疲れ様でした。
これからも、地元の子供達に合唱を教えることは続けられるそうだ。

私は、先生がまた大人になった私たちに教えてくれることを密かに願っている。またみんなで歌を歌えたら嬉しい。


いいなと思ったら応援しよう!