見出し画像

安野モヨコ ANNORMAL

 安野モヨコ展に行ってきた。@世田谷文学館

 この展示会名「ANNNORMAL」ってすごくうまいなあ・・・。

 何から話し出していいか分からないほど好きな漫画家。好きな作品はほぼ全部。ナンバーワンを決めるのは難しいけど…やっぱりさくらんかな…


 だけど正直な話、安野さんの休業中は安野さんの漫画から離れていた。その間私自身長いフリーター暗黒時代があったり、上京して正社員になってそれはそれはジタバタしたりで何なら漫画自体昔ほど熱を持って読まなくなっていた気もする。私にとって安野漫画は青春そのものという感じで、大学時代の「無責任」でいられた時代の頭お花畑状態で読んで楽しくて楽しくてしょうがないというしょうもない自分のハイな状態を今でもはっきり思い出せる。安野せんせいが情熱大陸に出られた時の美しい姿が大好きでそのあとに「美人画報」を買って、「そうかー先生はバングルが大好きなんだ・・・カッコいいな…!」と思い、真似してバングル集めてみたりね。そう、本当に浅はかに安野せんせい自身にもハマっていて、楽しかった。

 ↑今でも手元を美しくして漫画描いてらっしゃるのが今回の展示会で明らかに。バングル付けている…!

 そしてまさかの、「オチビサン」がステンシル方式で色付けされていたことをこの時初めて知り、驚愕した。(もちろんいい意味で)

::::::::::::::::::::::::::::::::

 でもこちとら浅はかに楽しんでいるつもりでも、「本物」の力が宿っている作品って知らないとことで享受した人間の脳裏に強烈な印象を与えてしまっている。 せんせいが体調を崩されていることはもちろん知っていた。そのことを思い出す度に美人画報の小さな一コマに「季節性うつ」「小石川公園の紅葉を見ていると涙が出てくる」なんてことが描いてあったことを一緒に思い出したし、「よみよま」の内容がせんせいそのものの事を描いていたとしたらどれだけの苦境を超えてきた人なのかと思ったりした。

 先生が休業されている時期と、自分が本当に社会とうまく折り合いつかなくて死にそうだった時期とが重なるせいか少し依存心みたいなものが強いかもしれない。それでも安野モヨコの描く絵が本当に美しくて好きで、心に引っかかる目と首筋とセリフだと、再認識できた展示会だったと思った。

 帰る直前に物販ブースで展示会名と同じ「ANNNORMAL」を購入した。今回の有給休暇はこの展示会と、これを家でゆっくりと読むために取ったと思っている。

 きっと作り手にとって「作り手の人物像」に迫られるのってかなりうざったい読まれ方だと思うのだけど、私はもう昔からそういうウザいタイプの読み手で、感動した対象を創った人がどんな人で、そのときどういうことになっていたのかが知るのが大好き。もっと、純粋に作品自体を楽しめよ・・・と自分でも思うけど、もうこれは止められない性というか、フェティシズムというか。 

↑展示会に貼られていたせんせいのアトリエの様子。素敵すぎる…

 だからこの本は迷わずに購入した。好きすぎてあっという間に読み終わってしまったが、想像の何倍も安野せんせいの心情がインタビューで語られていて結構びっくりした。やっぱり「よみよま」以上の苦しみを背負っていたのかと。お金を稼がなければいけない実家の事情と、バッシングの辛さと。

 買いかぶりすぎといわれるかもしれないけど安野さんの性格ってきっと「すごい人と結婚できたから万事解決」ってことに全然ならない、なれないタイプな気がする。本質を分かってしまっているから。インタビューの中でも、カントクに実家への仕送りとかまで賄ってもらうのは悪いと思ったと書いてあったしね。

 この「ANNNORMAL」を読んで、まさか涙を流すと思っていなかったのだけど。庵野カントクのメッセージページを読んでかなりの勢いで泣いてしまった。陳腐な言い方しかできないのが悲しいが、安野さんへの愛情が溢れにあふれていたから。私もパートナーのことをこんな眼差しで見ていたいと思ったし、カントクから見た安野さんの様子が、かわいくて愛しくてどんなに「成功者」「金持ち」「セレブ同士の結婚で無敵でしょ」とか言われてもなんか、嘘が無くって揺るがないものがあるなあと私は思ったのでした。

 私の安野漫画好きは、いったいどこから来て、今どうなっているのだろうと思う。安野せんせいが情熱大陸に出られた時、仕事もバリバリで、美しくて、眩しかった。とっかかりはそんなことだったと思う。けれど今、せんせいのご経験とは程遠い本気でしょうもないレベルの話だが、いろんな「め」にあい、歳をとった私に「後ハッピー・マニア」がすごく楽しく響くことが嬉しい。「美人画報」の美容法も、恋愛へのテンションも追いつかないくらいにしょぼくれた私でも「後ハッピー・マニア」の「年相応感」に共感して安野せんせいの描く漫画のレイアウト・セリフ・心情がドーンと響いてあーやっぱ、私って漫画大好きだったんだよな!と痺れる感じが、この2020年、冗談抜きで一番の幸せなことかもしれない。

 なんだかテンションもあがり「カルテット」のすずめちゃんのセリフが急によみがえってきました。

 だってこぼれてたもん 人を好きになるって勝手にこぼれるものでしょ?こぼれたものが 嘘なわけないよ
 心が動いたら 前に進む好きになった時 人って過去から前に進む

  私は、安野モヨコと安野漫画に対して、いまこういう気持ちでいます。


いいなと思ったら応援しよう!