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フジテレビトップ オリエンタルランドトップの大罪 私がOLCを退職した理由も
前noteに以下のように書きました。
「トップが利益を最優先、このことは東京ディズニーシーが開園する前から現在に至るオリエンタルランドのトップにも当てはまります。オリエンタルランドトップの大罪について次回のnoteに書きますのでお待ちいただけたら幸いです。」
もちろんトップの大罪というテーマは、タイトルの通りフジテレビ問題で明らかになった日枝久取締役の大罪を意識しています。
フジテレビ問題における日枝氏の責任は、各方面の方々が「重大な責任がある」とコメントなどしているのを見受けます。
日枝久 - Wikipedia 87歳 社長になってから37年間フジテレビのトップとして君臨してきた方です。
一方で、東京ディズニーリゾートで約30年君臨してきたトップ、加賀見俊夫氏のことが紹介される記事は見かけません。経済の業界誌では紹介されている、というより称賛されているのでしょうが。
新型コロナウイルス問題が落ち着いている現在、東京ディズニーリゾートの値上げ問題などネット上では批判記事が多く見られるようになりました。そこでTDR問題を客観的に、そして本質論的に書き残せるのは、東京ディズニーランド運営の最前線で「指導監督職」を約15年経験してきた私しかいない、そう思ってこのタイトルの記事を書いています。
結論はフジテレビトップの日枝氏が批判されていること同様に、オリエンタルランドトップの加賀見俊夫氏も批判されてもいい、日枝氏と同罪であるということです。もちろん根拠があるなどの批判の原則に基づいています。また、「罪」にはcrime(犯罪、法律違反)とsin(神に対する罪)がありますが、ここでいう「罪」とは『7つの大罪』の罪、つまりsinと訳される「罪」です。
加賀見氏の「大罪」は一言でいえば「ウォルト・ディズニーへの背信」であり、その基盤になっているのが加賀見氏の強欲さであると私は理解しています。そして、その結果がフジテレビトップの日枝氏同様な「イエスマンたちによるガバナンスであり、表顕してきた問題が値上げ、格差問題の象徴とも批判されている今日のゲストの声です。
このことを解説する前にタイトルに記した「私がオリエンタルランドを退職した理由」を明かにしたいと思います。
単純化すれば「今日の東京ディズニーリゾートの状態を予測できていたから」です。東京ディズニーランド運営部ののスーパーバイザーはアトラクションやサービス施設を運営するスーパーバイザーではなく、東京ディズニーランドを運営するスーパーバイザーです。「こうすればこうなる」というディズニー・テーマパークの法則的なものを頭で理解していなければ務まりません。
OLCのホームページから
1996年に、当社は新たな企業理念とともに、その理念のもとに当社が2010年に達成すべき企業像「OLC 2010 Vision」を制定しました。
この2010Visionは本社主導で作成されました。もちろん東京ディズニーシーはもともとアメリカのディズニー・テーマパーク用に立案されたもので、Vision全体はディズニー社の承諾を得たものであり、本社主導であることは当然のことです。
私は1982年にOLCに入社しましたが、その理由は学生時代にフロリダでディズニー・テーマパークに出会い、開業する東京ディズニーランドで働きたいという強い思いがあったからです。そしていつの日かその経験をもとに独立起業したい、そのように考え約15年間のスーパーバイザー業務に邁進してきました。
話を2010Visionに戻します。社員説明会があり序序にその輪郭が見えてきました。そして東京ディズニーシーとは何か、も理解できるようになりました。それは私には東京ディズニーランドというディズニー・テーマパークとは「別物」にしか思えませんでした。「夢と魔法の王国」とは程遠い、「テーマを持つパーク」でしかなかったからです。
ある日、第二テーマパーク運営はこうする、このようにして欲しいという「加賀見社長からの要望書」が届きました。しっかりと「要望」が二重取り消し線で「指示」に変更されていたものです。一番驚いたことは「パークが2つになっても社員数は極力増やさないという運営方針です。
そこで提案されたのがASM(アシスタントマネージャー)制度でした。運営部で言えば各エリアのマネジャーの下に複数のアトラクション、サービス施設のASMを置く、つまりエリアの運営を行うスーパーバイザー制度を廃止するというものです。
スーパーバイザーの任務は多岐にわたり、高度なトレーニングを受けなければできません。このことについて記すと何千文字にもなりますので避けますが、現業部門(運営、商品、食堂部など)担当の役員が、スーパーバイザー制度を高く評価していたこことは事実であり、私も講演会で聞いたことがあります。
私は社員の総数を増やさなくてもスーパーバイザー制度を維持できる対案を提出しました。社内で私だけだったそうです。「入場制限を誰が指揮するのか」、東京ディズニーランドの入場制限をコンピューターで簡単なプログラム化したのは私ですが、多くのマネジャーやスーパーバイザーの失敗や成功の結果が元になっている入場制限プログラムは引き継がれないと直観できました。事実、TDSの「大混雑」報道を聞くたびに「入場制限の実施ノウハウがない」と判断しています。
もう一つだけ書くとスーパーバイザーの職務に人事考課がありました。毎年のように外部講師からの研修を受け、公平な人事考課を行っていましたが、ASMが行うのかマネジャーが行うのかが明確にされていませんでした。
そして、2010Vision最大の問題は、ディズニー社との信頼関係が崩れるという憂慮でした。もちろんライセンサーとライセンシーの関係であることは十分理解しています。それでも以下の引用文が示す通り開業以来築いてきた両社間の信頼関係は損なわれるに違いないと確信できました。その理由は年間1700万人を超えた入場者と97%というリピーター率です。もちろん、ディズニー社と取り決めたパークの最大滞留者数62000人を守った上でのものであり「入れるだけ入れる」ということはありませんでした。
上澤昇著 『ディズニー・テーマパークの魅力-「魔法の王国」設立・運営の30年-』から引用します。
この巨大な劇場施設を成功に導くか失敗に終わるかは、この先の運営に関わっているからだ。そこで私は自分自身に二つの課題を課すこととした。
第一 運営とサービスでアメリカのディズニーランドの水準を凌駕すること
第二 ディズニー社側との強い信頼関係を築き、オリエンタルランド側の「主体性」を尊重してもらうこと
東京ディズニーランドがオープンして数年後、ディズニー社のマイケル・アイズナー会長、フランク・ウエルズ社長から「この東京ディズニーランドの運営とサービスこそ、ウォルト・ディズニーが理想に描いていたものだ。今度は私たちディズニー社側が東京ディズニーランドから学びたい」と高い評価を得ることができた。
近年ディズニー・テーマパークがアメリカ大学院のMBAクラスの「顧客満足」経営、顧客サービスのビジネスモデルと評価されているが、ディズニー社のマニュアルを超えたTDL方式がそこに影響していた。私はその評価に満足しながらも、それで終わらないために、マネージメント・スタッフに対し、「東京ディズニーランドはもうマニュアルに基づく理論を現場に応用するだけでなく、これからは現場から自らの質の高い理論をつくり出して欲しい」と激励した。
<引用終了>
このテキストを書かれたのは上澤昇元副社長であり、パークの最高運営責任者だけではなく、ディズニー・テーマパークを高橋政知元社長と共にディズニーランドを誘致された方です。役員でありながら運営部内に自室を構え、常に運営現場を見られていました。スーパーバイザーやマネジャーとパーク内を歩き、ゲストの満足度を常に肌感覚で把握されていました。
一方で加賀見社長をパーク内で見かけることはありませんでした。このことからも分かるようにOLC2010Visionは現場運営を知らない加賀見社長、つまり本社側の意思だけで作成されたものであったのです。そして、その結果が東京ディズニーリゾートへの不満です。「もう行けないね」、最近この言葉を私の周囲でも聞くようになりました。
書けるのであれば経済ジャーナリストと数万文字の「上澤派vs加賀見派」に関する著作物を作成したいと思います。
最後に。
ファミリー・エンターテイメント(家族娯楽)を基本理念とする東京ディズニーランドは、常に子供視野においた運営制度を敷いて、施設の安全性、健全性を守っている。子供の利用できないもの、子供にとって好ましくないものは園内から排除している。酒類の販売を制度として禁止したのもそのためである。ウォルト・ディズニーは、子供たちが「遊びながら学ぶ」ことの大切さを主唱し、アトラクション、建築、植栽、デザイン、テクノロジー、音楽などを素材に使い、子供たちのための学習プログラムのコースをつくり、子供たちの文化体験として、学校教育に積極的に活用してもらうことをPRした。また、新しく施設をつくる時には、初めから学校教育に積極的に活かせる要素を計画に組み入れた。
<引用終了>
上澤昇著『ディズニー・テーマパークの魅力 : 「魔法の王国」設立・運営の30年』
(顧客サービス・e-セミナー・テキスト ; 1) 全246ページ
国立国会図書館請求記号
DK261-H102
国立国会図書館書誌ID
000004240068