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【2日目】赤ちゃんのカンジョウ(カンジョウのトリセツ)

◆そもそも『モトあつめ』ってなんだっけ?

 「動物の餌やり」で、どのようにモトがやり取りされているか、イメージはつかめましたか?

 次のお話に行く前に、ここで少しだけモトの集め方について復習しますね。これは前巻をお読みでない方は、初めての説明かもしれません。

 まず、モトを集める行為を「モトあつめ」と呼ぶんでしたね。そして、モトあつめには「二つの方法」があるんでした。

 一番目は「人から奪ってくる」やり方。これはとてもカンタンですので、誰もが日常的に、しょっちゅう行っています。やり方は単純に「他者に注目される」だけ、でしたね。それこそ、大きな声を出して振り向いてもらうだけで、相手のココロからこちらにモトが入ってきます。

 二番目は「自分のココロで増やす」というやり方。これは一番目のモトあつめに比べると、ずっと難しい方法です。なぜなら僕たちのココロのが、モトでいっぱいになっているときにしか行われないからです。
 モトがいっぱいかどうかは、ココロについている「好き嫌いゲージ」の針が「好き」寄りかどうかによって、ココロが自動的に判定します。ですから、ココロとは別のパーツである「アタマ」でどれだけ「これは素晴らしいものだ」と考えても、ココロが動いてくれないと(実際に感動していないと)このモトあつめはできないのです。

 モトあつめ、そして僕たちの「モトのやり取り」には、この二種類のやり方が使われます。よく覚えておきましょう。

◆赤ちゃんの『モトあつめ』

 では、引き続き「モトのやり取り」の例を見ていきましょう。次は

「赤ちゃんのモトあつめ」

です。これも、動物の餌やり同様、とても単純なモトのやり取りです。

 赤ちゃんというのは、大人に比べて「アタマ」の発達が未成熟ですよね。ですから、自分の行動が社会的にどうかを「アタマ」で考えていません。つまり、ココロが起こした「気分」「感情」にそって、カラダを動かしていることがほとんどなわけです。

 そのプロセスはこうです。まずカラダに何らかの不快感(おなかがすいた、おしめがぬれた……そういうものです)が起こります。それを未発達なアタマが検出し、そのままココロに送ります。ココロは「不快な感覚がイヤだ」という判断で、好き嫌いゲージを下げます。
 好き嫌いゲージが下がったココロは「下がった分のモトを集めなさい」という命令(=感情)を出し、カラダに送ります。そうして赤ちゃんは
「オギャー!」
と泣き出すわけです。

 赤ちゃんが泣くのは、周囲の大人の注意を引いてお世話をさせるためですが、注意を引くと「モトが集まる」んでしたよね。つまり、赤ちゃんも「モトあつめ」をしていることになります。不快感により好き嫌いゲージが下がったため、モトあつめをすることで安定させようと本能的に行動しているわけです。これは動物たちと同じように、とても単純なモトあつめのやり方ですね。

◆赤ちゃんのモトあつめと大人の気持ち

 一方で、「周囲にいる大人」はこのときどうなるのでしょうか。

 世の中、「赤ちゃんの鳴き声がニガテだ」という人も結構いると聞きます。実際に電車やレストランなどで急に赤ちゃんの「オギャー!」という大きな鳴き声を聞いたら、そういう方はとてもイライラするようです。
 もちろん、赤ちゃんが大好き! どんな子も可愛い! という方もいますので、すべての人がイライラするわけではないと思うのですが、公共の場所で赤ちゃんが急に泣き出したら「おいおい、よそでやってくれよ、うるさいなぁ……」とストレスを感じてしまう方もいるのではないでしょうか。中には実際に「うるさいぞ!」と声を荒げてしまう人もいるかもしれません。

 このとき何が起こっているのか? というと、赤ちゃんの鳴き声を聞くことで

「モトが減った」

から、その人はイライラしてしまうのです。

 僕たちのココロが持っているモトは、注目したものに飛んでいきます。注目、と書いていますが、これはなにも「見る」だけではありません。突然の大きな音に注意を向けただけで、そちらにモトが飛んでいってしまいます。
 さらに言うと、赤ちゃんの鳴き声は「大人の注意を引く」ことに特化しています(生物学的なものです、そのために泣いているのですから)。ですから、周囲にいる大人は否が応でも注目してしまうわけです。そしてその結果、ココロのモトを赤ちゃんに吸い取られてしまうのです。

 ここで、泣き声を聞いた大人のアタマが「赤ちゃんのすることだから」とおおらかに判断できればいいのですが、たまたま元からイライラしている(=モトが少ない)状態だったりすると、好き嫌いゲージがグイッと下がってしまうため「怒り」の感情が起こってしまったりするんですね。

 僕たちが「赤ちゃんの泣き声にイライラする」のには、その裏にこういう「メカニズム」があるんです。

◆赤ちゃんを「愛している人」のメカニズム

 他方で逆に「赤ちゃんが泣いてる! お世話したい!」という考えが起こる人の「アタマ」がどうなっているかというと……

 まず、赤ちゃんの鳴き声を聞きます。赤ちゃんに注目しますので、好き嫌いゲージが減ります。ココロはモトあつめをしたがっているパーツですので、モトが減ったから取り返しなさい、という命令を出します。ここまでは、さきほどの「イライラする人」と同じです。

 ここから先に違いがあります。泣いている赤ちゃんに何らかの愛着がある人(両親であったり、世話好きな人だったり)は、その赤ちゃんの「不快感」を取り除いてあげたい、という気持ちになります。そして、そういう行動を取るわけです。たとえば、おしめを替えてあげたり、お乳を飲ませてあげたり、抱きかかえて「よーしよしよし」とあやしてあげたり、ということを「したくなる」のです。
 これは「気持ち」なので、感情の一種ですよね。どうしてそうしたくなるのかというと、その後で起こることを「アタマ」が知っているからです。

 では、次回はこのときの「アタマ」の動きをもう少し掘り下げてみましょう。

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日南本倶生(みゅんひはうぜん)
「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)