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買いものを失敗したと思ったときのダメージ

モノの種類や金額の大小に関わらず、「失敗したかも」あるいは「失敗した!」と思ったときのダメージは地味に大きい、という話。


先週、コンバーター、カートリッジ両用のボールペンを買った。
夏場は万年筆のインクが固まるから困る、筆記具を増やすのは止めよう、と考えていたばかりなのに買ってしまった。ときどき行く文具店で新入荷展示になっているのを目にしたら、出会いにワクワクし、「ボールペンなら大丈夫かも」なんて思ってしまった。

カートリッジ専用のボールペンではあるのだけれど私の持っているエルバンのお手軽ペンは、確かにインクが固まらない。日数の経過と共にカートリッジの中のインクの粘度は高くなっていると感じるけれど、色味が濃くなる程度で、固まりはしない。
だからおなじくエルバンのコンバーターが使えるタイプのボールペンを店頭で見かけたら買いたいな、と思っていた。エルバンのペンには未だ出会えていない。出会いのタイミングはだいじだ、と思う。メーカーは異なれど出会ったのだから、これは使ってみろっていうお導きかも、なんてテンションも高くなる。

こうして私は、この日知ったばかりのメーカーのボールペンを買った。千数百円だった。


インクはどうしようかと少し迷ったのだけれど、おなじタイミングで買ったエルバンのカードリッジインクを入れた。しばらく使っていなかった色味の、スモーキーな緑が気分に合ったように思ったから。

サラサラと紙の上のボール滑り良く、はっきりしすぎない緑色のインクで文字が書かれていく。思った通り、今まさに気分の上がる書きものができる。ちょっとした思いつきのメモから、原因不明のモヤモヤを書いて解明する作業まで、新しいボールペンにご一緒願った。


新しいボールペンの色みと書き心地は、私にごきげんハイテンションをもたらしてくれた。創作も、気持ちの整理も、頭の体操も、そこに挑むテンションによって、成果に大きなちがいが生まれる。しばらく滞っていたあれこれが、なんだかちょっと動きはじめた。

ああ、幸せ。

そう思った直後に異変が起こった。

紙の中央に穴が空いたみたいに、濃い緑の円ができているのが目に入った。なんだ、これ、と思った。思ってすぐに気づく。これはインクだ。このボールペンの中に入っているであろうインクだ。え、どこから出てきたのだ。まさか漏れてる?

指先を見るも異常はなかったけれど、紙の上についている小指の付け根あたりは一体が緑に濡れていた。ボールペンを持ったまま立ち上がり、手で受け皿を作るようにしてティッシュのある場所まで移動した。あちこちを拭いつつ、インクの漏れ出す場所を探る。カートリッジとペン先のちょうど間になる軸の部分にインクが溜まっているらしき影が透けて見えた。

昨夜、いい感じだと眺めたペン先に、こんな影は見えなかったと思う。いつ、こんなふうになってしまったのだろう。

購入したのは先週のことだ。正確には五日前。下敷きや小指の付け根についてしまったインク跡を洗い流しながら、しょんぼりと悲しい気持ちになった。


そうしてそのあとはもうダメだった。手帳を広げても、さっきティッシュで押さえたインクのシミばかりが目に入って、なにも書きたくない。

エルバンのボールペンに出会えるまで待つべきだったのかもしれない。知らないメーカーのペンに安易に手を出したのが良くなかったのかも。買う前にリサーチしてみていたら、インク漏れが多いって口コミがあったかもしれない。それでも使ってみたいと思って買ったのならば平気だっただろうか。いや、それなら買わなかったかも。
失敗しちゃった。悲しい気持ちの終わりにそう思った。


金額にしたら、千数百円はそんなに大きなことではないかもしれない。けれど、汚れてしまったページと、もう再び使おうとは思えないであろうボールペンと、私の気持ちに落とされた影はとても大きい。

買いものを失敗したと思ったときのダメージは、地味に大きいのだ。モノの種類や金額の大小に関わらず、どさっと心に覆いかぶさってくる。できればこんな気持ちにはなりたくない。


買いものには慎重であれ。モノの種類や金額の大小に気を緩めてはならない。ワクワクもだいじだ。けれど慎重であれ。地味に大きなダメージを回避するために。

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