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《夢儚散文23 空を舞う》#掌編小説
空を飛ぶ夢を見た。
誰もいない新宿のビル群の隙間を自由自在に飛び回り、大空へ舞い上がった。
重力に囚われないで、空間を舞う。
その解放感に酔いしれ、ただただ舞い続けた。
空から街を見下ろすと、全てが小さくなってオモチャの街を眺めている気がして、私が感じていた人間の世界なんて随分とちっぽけなものだなと思った。
もっと高く飛んでみたらどうなるだろうか。
今にも雨が降りそうな分厚い灰色の雲が空を覆っていた。
私は思い切って飛び込んでみた。
涙の粒の源泉の雲とも言える微細な水の粒子を体に浴びながら雲を抜けると、目が眩むほどの太陽の輝きを全身に浴びた。
真っ白な雲海と磨かれたレンズのような透き通った青空が目の前に広がった。
地上にいたらあんなに曇り空だったのに、雲の上はこんなにも晴れていたんだなと思った。
太陽を目指してみよう。
さらに私は高みを目指し空を舞った。
地球は本当に球体である事を自分の目で見て感じ鳥肌が立った。
そんな地球には当たり前に、雲の在る場所と無い場所があり、雨が降っている場所と降っていない場所もあり、嵐も日照りも、大雪も、灼熱も極寒の土地があるのが見えた。
これが自然の有り様なのだろう。
それが無為自然な事であると地球が雄大さと共に語っている気がした。
大気圏ぐらいの高さまで辿り着いたとき、
太陽の光と熱が急激に上がり始めた。
私の目が焼け、そして体には火が着いた。
慌てて地上へ戻ろうすると、飛行能力が失われていることに気づいた。
もう何も出来ない。
体を燃やしながら、私は悶え苦しみながらまっすぐに地球へと落下していく。
雲を越える頃に私の体は大きく燃え上がると流れ星のように燃え尽き、世界の塵となった。
肉体を失っても心は空を舞っていた。
私がいなくなった世界は何も変わらず、ただ美しく自然のままだった。
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